2016
12.05

キャリア教育について感じていること1

都立工芸高校は東京のど真ん中にあり、生徒諸君も都内から通学してくるために、東京がいかに日本国内で突出しているか、私たちが意識することはありません。当たり前のように、大学進学を考える時には東京都内にある有名大学の名前を挙げ、就職を考える時も東京都内に本社のある東証一部上場企業の名前を思い浮かべます。
しかし、全国にある工芸系の高校に通学している高校生にとっては、このことはとてもうらやましいことであるだろうと思います。全国で行われる工業系、工芸系高校の研究協議会では、必ず高校生と地域産業とのコラボレーションによる町おこしや地域活性化の取組が発表されます。その内容のレベルの高さは驚嘆に値するほどであり、そうした取組によって、高校生たちの技術や意欲の向上が図られ、地域産業が盛り上がりを見せるような良好な結果までもたらしています。こうした全国の工業系、工芸系の高校のがんばりは、県内のその地域で大きな期待を担っており、それに応えようとする高校生たちの努力は素晴らしいとしか言いようがありません。そして地域の大人たちにとって工業系、工芸系高校がそこに存在していることが、地域活性化の起点として意識されていることに気が付かされます。
都立工芸は地方の高校と同じように、地元文京区の期待を一身に背負ってがんばっているでしょうか。確かに、文京区役所から御依頼をいただいているポスター、パンフレットのデザイン、防災マップの作成、地域のお祭りの装飾、警察や消防とのコラボレーション、地域の保育園や福祉作業所での奉仕活動、学校周辺の清掃活動など、全日制も定時制も工芸生はいろいろとやっていますが、地方と決定的に違う点は、都立工芸がさらにもっとがんばらなければ、文京区がダメになってしまうとか、文京区の人口が流出して産業が崩壊してしまう、というわけではありません。都立工芸だけではなく都内にある全ての都立高校、国立高校、私立高校の生徒たちは、学校が所在している地元産業界の要請を一身に全力で背負っていく必要がない。「人間と社会」で地域貢献活動を積極的に実施しよう、インターンシップをもっと取り組もう、と各高校でがんばっていますが、絶対的な必要性の面において地方の高校と置かれている状況がまるで違うように感じます。
 さて、文部科学省はこの10年「キャリア教育」を推進してきました。キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育(中教審答申H23年1月)」であり、その育成すべき力を「基礎的・汎用的能力」としています。「基礎的・汎用的能力」とは「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題解決能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力によって構成されますが、乱暴に括ってしまうと、これから私たちが生きていくために、社会の一員としての意識をもち、自己管理がしっかりできて、他人とコミュニケーションを取れ、何か起きた時にはそれを乗り越えて、将来を見通しをもって人生を送ることができるような力を身に付ける、ということです。東京に住んでいる私たちは、「基礎的・汎用的能力」を身に付けることだけを努力しながら、自分の進路をどのようにしていくか考えていくことができます。すなわち、東京で考えるキャリア教育には余計な足かせがありません。しかし、地方でのキャリア教育に対する受け取りはちょっと違うように私には感じられます。誤解を恐れず強い言い方をすれば、地元で育った若者が仮にいったん都会で大学に行ったり就職したりしたとしても、必ず将来、もう一度地元に呼び戻して、地域産業の活性化を図ることがキャリア教育である、と考えられているように思われます。

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