2016
12.05

ネットワークを取り巻く状況2

生徒諸君は世界史の授業でローマ帝国について学習します。紀元前1世紀、ローマの重要な軍人で政治家にユリウス・カエサルという人がいます。英語読みではジュリアス・シーザーと言います。共和制からビザンチン帝国の滅亡にいたる二千年のローマ史の中で、最も重要かつ偉大な人物です。
この人の言葉の中で有名なものに、「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」という言葉があります。世の中にはさまざまな現実があり、嫌なこともつらいことも、見たくないことも聞きたくないことも起きるわけですが、人はそうした現実の中で自分に都合のよいことだけしか見ようとしない、ということを今から二千年以上も前にユリウス・カエサルは言っています。もちろんカエサルが言いたいのは、自分にとって嫌なこと、都合の悪いことの現実にも目を向けなければいけない、ということですが、自分にとって嫌なことから目を背け、都合のよいことだけを認識して生きている人は少なくない、むしろ随分と大勢いるのではないか、と思います。
ところで、現在のコンピュータとネットワークの世界では、自分の都合のよいようにネットワークのほうが変化してくれるという時代になっていることを、皆さんは聞いたことがあるでしょうか。
「フィルターバブル」という言葉が一時期はやったそうです。この言葉はイーライ・パリサーというアメリカの人が書いた「フィルターバブル インターネットが隠していること(ハヤカワ文庫)」に書かれている言葉です。
現在、グーグルやフェイスブック、アップル、マイクロソフトなどの企業は、コンピュータを使用しているユーザーの情報を、何を検索したか、どんなことに興味をもっているのか、といった全て収集しているそうです。これはユーザーがクイックした事項を全て記憶しておけば、その人がどんな人であるのか、容易に判断することができる。そして収集した情報に合わせてユーザー一人一人のネットワークをデザインし、パーソナライズすることができ、現にそのようにしているそうです。したがって、グーグルで同じことばの検索をかけても、人によって検索結果が異なってくる。仮に皆さんの中にヒップホップ音楽が好きな人として、日頃からヒップホップ関係の検索をかけていると、ある言葉をヒップホップとは関係ないつもりで検索をかけても、ヒップホップに関わりがある検索結果がコンピュータ画面に現れ、コマーシャルバナーにもヒップホップに関わりのある商品が出現するということになるそうです。(私自身で確認していないので、本当にそのようになるかどうか時間があるときにやってみてください。)イーライ・パリサーはこうした状況をフィルターバブルと呼んでいます。
今の時代は、自分の意思とは無関係に、自分の好きなものだけが情報提供される、という時代になっているということです。
自分の好きなこと、好きなものだけに囲まれて、創造的な、クリエイティブな発想や仕事は果たしてできるのか。また、子供のときから自分の好きなものだけに囲まれて育ったら、好きなもの以外のものを受け入れることができる人間になれるのか。
こうしたことの延長線上に、自分が正義と思うもののためには、何をしてもよいという直線的な考え方も出てくるように思います。こうした状況に陥らないために、正しい判断ができるようになるために、知識と教養を身に付けることが大切で、自分にとって異質なものをしっかりと受け止めることができるようになっていくことが大事です。フィルターバブルの世界の内側は自分の好きなものしかない心地よい世界ですが、そうした自分の心地よい世界を打破し、異質なものへぜひ挑戦して欲しいと思います。

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