2017
01.17

自己管理と自己責任(2学期終業式講話から)

全日制では12月21日に、スクールカウンセラーの市原千絵先生のお話を聞きました。市原先生は御講演のタイトルに「都立工芸生の処方箋」という副題としてつけられていて、都立工芸の生徒の特徴を巧みにとらえたお話をしてくださいました。工芸生が作品制作の課題を多く抱えていること、そして常に作品を評価される立場にあることを触れられて、他の普通科の一般的な高校生と立場であることを指摘されました。そのことを踏まえて、心の自己管理のことを多くお話しになりました。お話の中にはキーワードがいくつもあり、例えば「自由とは他者から嫌われることである」というアドラーの言葉を引用して、「嫌われると自由になる」という言葉があったり、「人とうまくやっていくテクニックより、自分で自分を立て直す」とか「クールに自分を観察する」といった言葉があったりして、なるほどと思いながら聞きました。
生徒の皆さんは「自己管理」ということを、小学校や中学校から何回も言われてきていると思います。でも「自己管理」はとても難しく、大人でも完璧に自己管理できている人は少なく、私も自分で自分のことをきちんと管理できているか、と言われると自信をもって「できている」と言うことができません。
都立工芸生にとって自己管理とは、全日制の生徒であれば、夜更かしせず朝早く起きて学校に通うことであり、定時制の生徒であれば、給食の時間に間に合うように、あるいは1時間目の授業に間に合うように登校することであり、どちらの生徒も毎日の繰り返しの中で、課題を期日まで提出できるようにスケジュールをきちんと調整し、睡眠時間をしっかりと確保して心身の健康を保ち、勉強に励み、自分の技術を磨き、知識、教養を身に付けていくことです。
しかし、何かのはずみで、例えば体調を崩した、人間関係に悩んで課題が手につかなかった、あるいは、自分ではなくて、家族が体調を崩して面倒を見なければならなくなった、といったことで、微妙なバランスの上に立っていた自己管理が崩れてしまうこともあります。そういう中で課題が間に合わなくなって、つらい思いをした人もいるかもしれません。
自己管理のバランスが崩れたときに、学校であれば友達に相談したり、先生に相談したりして立て直すことができます。市原先生のお話の中にもありましたが、一人で抱えないことがバランス回復のコツであるように思います。
ところで現在、社会問題として「貧困」が大きく取り上げられるようになってきました。テレビや新聞、いろんな書籍で「貧困問題」が論じられています。最近やっとこの問題には複合的な原因、例えば社会的な構造、歴史的な経緯、経済状況や労働環境の劣化があることが考えられるようになってきましたが、ちょっと前までは、貧困に陥るのは自己責任であるという論調が多く見られていました。例えば若者が就職してもすぐに退職するのは本人に根性がないからだ、忍耐する力が育っていないからだ、だから、会社を辞めた後アルバイトを続けていて、結果として就職できなくなって低収入のまま高年齢となっても自己責任であるといった論です。最初に入った会社が労働基準法を無視するブラック企業であったり、犯罪まがいの事業を行っていたりして、離職するのもやむを得ないことがあることや、いったん職を離れた人が再就職をするための道筋が日本の社会の現実としてきわめて厳しい、ということや、どんなに優秀な仕事ができる人であっても派遣社員であると、正社員になっていくことが難しく、高い収入を得ることができない、といったことにやっと社会全体が気が付き始めました。しかし、若者が学校を卒業し、社会に出ていったときに、何かのはずみで離職せざるを得ないことが起こり、その結果として貧困のループにはまり込むことは、誰の身にも起こることである社会的な状況であることに変わりはなく、そのときに自己責任で片付けられてしまうこともあり得るのが、今の日本の状況だと思います。
都立工芸でがんばっている生徒の皆さんがそうした状況に陥ることがあってはならない、そして悪いループの断ち切ることこそが、教育の役割だと考えています。自分の人生は自分でデザインできる、そういう社会であらなければならない、とも思っています。しかし、こうした悪いループにはまり込まない何よりも一番の予防方法は、自己管理をきちんと行うことであることも考えておかなければならないことです。そして自己管理は継続を要することであるのも知って欲しいです。悩みを抱えている人も大勢いるのだろう、困難な状況に直面している人も少なくない、しかし、「今日解決できなかった問題は明日必ず解決できる」信念をもち続け、しっかりと自己管理をお願いします。

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