2017
01.19

仕事を選びますか。収入を選びますか。1

今から10年ぐらい前、お休みされた先生の代わりとして補習授業を行いました。私の専門の国語ではなく仕事選びの話をしました。そのときに生徒たちに「やりたい仕事だけれども収入が低い仕事と、収入は高いけれどもやりたくない仕事では、あなただったら、どちらを選びますか?」と聞いたことがあります。聞かれた生徒たちはきょとんとして、この補習で突然やって来た先生は一体何を言い出すのだろうという反応で、しばらくザワザワしていましたが、必ずどちらかに手を挙げてください、と言われてしぶしぶ手を挙げてくれました。
実は、そのクラスのほとんどの生徒が選んだのが、「やりたい仕事だけれども収入が低い仕事」でした。当時、世界はまだリーマンショック前でしたし、日本は小泉政権末期ではありましたが、経済状況はまあまあ良い時期だったことや、生徒たちが、まだ進学や就職を具体的に考えなればいけない時期ではないことが影響したのではないかと思います。
さて、1980年代の後半はいわゆるバブルの時代と言われていて、日本の経済が最も強かった時代です。高校を卒業して就職先に困ることなどはほとんどなく、企業は人手不足が深刻で、希望通りの仕事に必ず就け、かつ高卒の初任者であっても高収入を得ることができる時代でした。世の中が急激に豊かに華やかになり(都心には新しい豪華なブランドショップができたり、街をイタリア製の高給スポーツカーが走っていたり、盛り場では大勢の若者が着飾って一晩中楽しんでいたり)、誰にでも成功するチャンスがあってお金持ちになることができるという風潮が社会を覆っていました。
また、近い将来華やかな仕事に就いて(音楽のメジャーデビューなど)高い収入を得ることができる、必ずビッグになってやるといった成功を夢見て、今アルバイトをしながら努力を続けている、といった若者が社会では肯定的に受け入れられた時期でもありました。アルバイトによって得られる収入は金額的には今よりも低い時給だったですが、アルバイト収入の金銭感覚は今よりも良かったのではないかと思います。
「フリーター」という言葉がいつから使われ出したがよく覚えていません。当初この言葉が出てきたとき「フリーター」というカッコいいライフスタイルで、積極的に将来の夢に向かって努力している若者というニュアンスとして使っていたように記憶しています。
1990年にバブルが崩壊し日本社会は長い混迷の時代に入りました。高校生が卒業後に「フリーター」となって、アルバイトによる収入によって生活し、かつ会社に正社員として就職することなく、フリーターの生活を続けると生涯賃金が低くなってしまうことが高校の進路指導で問題となってきました。現実に夢を叶えて成功することができたのはほんの一握りのフリーターであり、ほとんどが年齢が上がっていき、仕事の経験を積むようになっても決して収入は上がっていかない現状が明らかになってきたからです。
しかし一方で、以前はいくらでもあった高校への求人は急激になくなっていき、高校生の就職活動は次第に困難となっていきました。さらに不幸な追い打ちをかけたのは、1990年代前半時期は、第2次ベビーブームの若者が高校に入学し、卒業する時期であったことです。1990年代中途から2000年代前半を就職氷河期と呼ぶ向きもあるほどですが、就職活動を行っても実際に希望の仕事がないために、高校卒業後アルバイトを行う若者が増えた時期でもありました。
しかし、この時代にはいまだに高校生の中には前の世代を後遺症からか、「夢追いかけ」型のフリーター志望の者もまだまだ多くいたように思いますし、学校に送られてくる様々な就職関係の資料も「夢追いかけ」型コンセプトで作られていることが多かったように記憶しています。

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