2017
01.19

仕事を選びますか。収入を選びますか。2

1990年代終わりから2000年にかけて、アメリカでも日本でもITバブルと呼ばれる経済活況がありました。現在巨大企業となったIT関係の会社の基盤が完全に確立した時期で、10年前20年前は学生が始めた小さなベンチャー企業であった会社が、きわめて大きなコンピュータ関連の会社として成長し、その創始者たちはカリスマとして巨大な富を獲得した時代でした。日本のIT関連の会社も大きく成長し、巨額な資金を集め、社会的な影響力をもつようになりました。元ライブドア社長の堀江貴文氏の著作を読むと、この時期のコンピュータ関連のベンチャー企業が人材や資金を集めて急激に大きくなり、既存のメディアやシステムを脅かすほどの力をもつようになり、そして逆に足元をすくわれるようにして淘汰されていった様子が伝わってきます。また、ニューヨークを中心として、集まってくる途方もなく巨額な資金が金融工学のプロたちによって運用され、さらにもっと巨額で実態のない資金に膨張していった時代でもありました。「マネーゲーム」という本が出ていて映画にもなっていますので御覧ください。
世界にはそうした資金を運用することで、とんでもないお金を儲けている人がいることが報道されるようになっている時期に、先ほどのクラスで「やりたい仕事だけれども収入が低い仕事と、収入は高い仕事だけれどもやりたくない仕事では、あなただったら、どちらを選びますか?」という質問を生徒にしたというわけです。
その時の世界情勢等に対する反感や反発から生徒が「やりたい仕事だけれども収入が低い仕事」に手を挙げたとすれば、健全な社会に対する批判精神が育っていたということができるかもしれません。
そして、あれからさらに10年の月日が経ち、社会では「夢追いかけ」型フリーターを礼賛することはまったく無くなりました。そして現在の日本では正社員として就職することができたとしても、労働基準を守らないブラック企業による若者の「すりつぶし」就労の問題や、体調を崩していったん退職してしまうと、もう一度正社員としてなかなか就職できない問題、仕事をしていく上でのスキル育成や研修の機会、OJTが十分でない企業の問題など、「夢追いかけ型フリーターは危険だからよくよく考えていかなければいけないよ」と進路部で生徒たちに言っていればよい時代よりも、事態はより複雑になっているように思います。そして「夢追いかけ」型フリーターだけではなく、仕事に対しての考えがまとまらないとか、業種の希望がない、やりたい仕事が見つからない人が、とりあえずフリーターとして就労を続けていくと、フリーターとしての価値は年齢が上がるにつれて下がっていくものなので、ますます低収入となっていく事態に陥ってしまうようになっています。すなわち、2010年代後半の現在は、高校生は以前よりもさらに仕事に就くことについて、よく考えていかなければならない状況となっています。
「やりたい仕事だけれども収入が低い仕事と、収入は高い仕事だけれどもやりたくない仕事では、あなただったら、どちらを選びますか?」という二者択一による就職選択は極端な質問で、そんな選択をしなければならなくなる人は、ごく少数だと思いますし、工芸生のみなさん全員が、高校卒業後すぐであろうが、大学進学後であろうが、やりたい仕事でかつ収入の高い仕事に就いていって欲しいと願っています。しかし、そのためには、これからの時代は、自分で自分の人生をデザインする力を身に付けること、具体的には、計画的で着実に社会で役に立つ技能・技術を身に付けること、社会変化に耐えることができる柔軟性、知識や教養、語学力、コミュニケーション力、AIより優れた創造性、発想力などをもっていかなければならないということです。

Copyright Tokyo Metropolitan KOGEI High School. All rights reserved.