2017
01.22

サピエンス(3学期始業式校長講話に加筆)

今年は都立工芸高校にとって創立110周年の節目の年となります。最上級生が卒業してからとはなりますが、5月28日に文京シビックセンターのホールにて創立記念式典を行います。いい式典ができるように、先生方も今から準備を行っています。ぜひ学校を盛り上げていきたいと考えていますし、皆さんの意欲が高まり、さらに良い作品制作ができることを期待しています。
さて、1年前の昨年の3学期の始業式では、私は皆さんに本を一冊紹介しました。2年生以上の人は覚えているでしょうか。「人類が知っていること すべての短い歴史(A Short History Nearly Everything)」(ビル・ブライソン著、楡井 浩一訳 新潮文庫)という本です。人類が到達した天文学、物理学、化学、生物学、地質学、医学、文化人類学など様々な科学(Science)を俯瞰し、地球あるいは宇宙についての知識が書かれていて、科学的な知識を身に付けるたびに、人間が世界観、宇宙観、哲学や宗教を変容させてきた歴史について書かれている本です。知識を獲得すると、それに伴い人間の想像力も飛躍的に豊かになっていく。例えば宇宙の創生は特異点からの大爆発から始まる、その最初の1秒を物理学者は解明するために全力を尽くしています。その1秒間で起こったことを科学的に解明することができるのは飛躍することができる人間の想像力ではないかと思いますが、神話的宇宙観しかもたなかった時代の人間には、特異点からの宇宙の膨張といったことさえ想像することはありませんでした。
今年も同じように本を紹介したいと思います。「「サピエンス全史」文明の構造と人類の幸福(Sapiens)ユヴァル・ノア・ハラリ著 河出書房」です。
この本の著者は、サピエンス(私たち現生人類)が他の生き物、特にネアンデルタール人のような他の人類と決定的に異なり、進化することができたのは、虚構(フィクション)を信じることができる力があるからと考えています。貨幣制度も国家も宗教も資本主義も、現実のモノとして目の前に存在していないにも関わらず、人間は大勢の人々でその存在を信じてルールを作り、他の生き物とは異なるきわめて大きな集団を形成し、全人類でその虚構をシステムとして運用することができる。そのシステムを守るために殺し合いまでしてしまう、そうした力をもっている生き物であるからだそうです。
今から7万年前までは、サピエンスにこの力はなかったと筆者は言います。それまでのサピエンスは、他のネアンデルタール人といった今では絶滅してしまった人類と同様に、火を使ったり道具を使ったり、あるいは言葉を話すことはできたが、他の人類に対して圧倒的な有利な立場ではなく、人類の一つの種として存在するに過ぎませんでした。筆者は虚構を信じることができるようになったことを認知革命と呼んでいて、この認知革命がなぜ起こったかについては、「たまたま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わり、それまでにない形で考えたり、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通をしたりすることが可能になったのだ」と述べています。そのお蔭でサピエンスは「限られた数の音声や記号をつなげて、それぞれ異なる意味を持った文をいくらでも生み出せる」ようになり、神話、宗教、政治、人権、貨幣、スポーツといった現在の人間社会を支えているありとあらゆる「虚構」(人間が考え、つくり出したシステム)によって、互いを見知らぬ大勢の人々(ときには何億人単位)が協力し合うことができる唯一の種となりました。しかも、虚構を信じることのできる力によって、遺伝子レベルでの突然変異や組み換えを必要とすることなく、さらに新たな虚構を作り出すことができます。社会的な行動をとることができるハチやアリは、社会的な振る舞いそのものが遺伝子に組み込まれているので、新たな社会的行動を獲得するためには遺伝子の特別変異が必要で、そうした変異が起きるまでに何万年、何億年の月日が必要となるかもしれません。サピエンスは学習により行動を変容させ、新たなシステムをつくり上げて行動パターンをきわめて短時間で(例えば一晩で)変えてしまうことができます。
認知革命の後、1万年前に農業革命、500年前に科学革命が起き、現在の私たちがあると筆者は考えています。そして現在起きていることは、人間の知的設計の変更、すなわち生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学によって、サピエンスの種としての変更による生物革命であると述べています。生物が新しい種への変化していくためには、ダーウィンの進化論にあるような適者生存や突然変異による生物学的な変化でありました。サピエンスは自分の都合のより、これまでも家畜などの品種改良は行ってきましたが(ニワトリや豚、牛、羊など)、遺伝子工学により、ジュラシックパークのような絶滅した種を復活させることだってできるようになる。そのような技術を確立したときに、遺伝子操作により、より優秀で長生きする人間を作ろうとしないと断言できるのだろうか。また、遺伝子工学だけではなく、マイクロチップ等の補助による知能や記憶の増大、きわめて強い力をもつ義手や義足による強靭な体など、メカニックによる人間の能力の向上についても試みられている分野はすでにあります。こうした技術や科学の発達により、サピエンスは近い将来に別の種へ、言わば超ホモサピエンスへと変化していくことになるだろう、ということを述べています。
「サピエンス全史」は、去年紹介した本と同様にちょっと長い本ですが、私たち人間はどこからきたのか、何を考え、何を発見してきたのか、そしてどこに行こうとしているのか、ということを考える材料として有効だと思います。皆さんが課題に取り組む際に、未来がどのような社会であるのか、将来人間がどのような暮らしをしているのか、という視点は大事だと思いますので、こうした本を紹介します。また、この本に関してはNHKのクローズアップ現代でも取り上げられましたので、インターネットで検索すると記事が出てきます。
今年の皆さんと皆さんの御家族の幸せをお祈りするとともに、3学期は心身の体調をしっかりと整え、遅刻、欠席が無いように、課題提出をきちんと行うようにお願いします。

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