2017
02.25

長時間労働と低賃金との戦い

都立工芸高校に入学してくる人たちは、将来デザインやものづくりの職業に就きたいとか、ゲームやアニメに関係する仕事をしたいとか、あるいは漫画家や絵描きになりたいと考えていて、はっきりとした夢や希望をもっていることが多いです。現に卒業生にはそうした世界で活躍している人が大勢いるので、現役の生徒たちも卒業生の話を聞いて、夢や希望を叶えるための道筋を描きやすいです。私は、都立工芸に入学し、卒業していく人たちみなさん全員が、それぞれの夢や希望を叶えて欲しいと心から願っています。
さて、現在の日本の社会では、長時間労働が解消されない、労働賃金が上がっていかない現状があります。人手不足のために、長時間労働を余儀なくされる、アルバイトや派遣労働であるために、なかなか賃金が上がっていなない、という話はいろんなところでよく聞きます。国には最低賃金制度という制度があります。最低賃金法に基づき最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。最低賃金には、各都道府県に1つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。ちなみに東京都の最低賃金は高くて、1時間の賃金が932円ですが、隣の千葉県では842円ですし、埼玉県では845円です。この地域別最低賃金は特例により減額が認められることがありますが、原則すべての労働者に適応されるものです。こうした制度により労働者の権利が守られているはずではあるけれども、なかなか長時間労働が改善されない、あるいは賃金が上がっていかないのはなぜでしょうか。
一つは、就業の構造そのものが、長時間労働と低賃金によって支えられたシステムになってしまっているということです。会社は、同業種他社との競争のため、価格を低く抑えなければ生き残れないようになりました。特に一時期、いろんな業種で価格破壊が進み、廉価でサービスや商品が売り出されたために、人件費を極限にまで抑える状況が加速しました。あらゆる業種で正社員や正職員の割合が低下し、派遣会社からの臨時雇用の社員や職員が大勢働くようになりました。こうした臨時雇用の労働者は会社側から言えば、雇用を短期間で打ち切ることができるし、人件費を低く抑えることができる社員です。働く側から言えば、いつ雇用を打ち切られ別の会社に派遣されるか分からず、仕事に慣れたところで別の会社に行けば新しい人間関係と仕事内容を習得しなければなりません。理不尽さに我慢している人も少なくないのではないかと思います。
もう一つは若者が集まる人気が高い職業と、そうでない職業とに仕事が分かれるようになってきているということです。若者が集まって来る人気の高い職業の場合、会社側から言えば代わりの若い社員はいくらでもいるので、長時間労働でがんばっている若者の労働条件を改善する必要性は感じられない、また、賃金が高くなるようであればさらに若い希望者を代わりに雇って人件費を安く抑えることができるということです。みなさんの中で何人もの人がやってみたいと考えているゲームクリエイターの仕事は、希望者が多数いて人手に全く困っていません。会社の数も限られていて過当競争に陥っていますし、国際競争も激しくなってきています。そんな中で、みなさんの中でどうしてもゲームクリエイターになりたい人が、やっとそういう業種の会社に就職できたとしたら、仕事がどんなに長時間労働であっても、残業代がつかず低賃金であっても、がんばって仕事をしてしまうだろうと思います。こうした構図が社会のいたるところで起こっているように感じます。こうした構図や社会的な状況がみなさんのもつ夢や希望を食いつぶしかねない、そんな心配をしています。
若いうちはいろんな経験をして修行し、社会の荒波にもまれながら自分を鍛えていかなければなりません。就職すれば最初の何年間かは見習いで、お給料をいただけるだけで幸せで、電話の取り方やお茶の出し方からできるようにならなければなりません。上司のかばん持ちでお得意様をまわり、元気よくあいさつしていつも機嫌よく応対することが求められます。残業をいとわず接待要員として駆り出されたり、ほとんど徹夜で納期を守るために作業をしたりしなければならないこともあります。
自分がやりたい仕事に就くために努力をすること、就職したら全力でがんばることは当然ですが、自分をすりつぶすような勤め方があってはなりません。仕事で通じて自分の夢や希望を叶えること、仕事をすると創造性や感性がますます磨かれるようになること、そんな職業選択を行ってほしいと思います。

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