2017
03.21

君はモナリザを見たか

私が卒業した青森県立高校では、授業中生徒の集中が切れて生徒を授業に引き付けることが困難になると、東京からの転校生(私のこと)に話題を振って、生徒の集中を引きつけようと試みる先生がいました。私にとっては迷惑なことで、つっけんどんな答えをして、今から思うと随分と先生方に失礼な言動も取ったように思います。
そんな中で、ある英語の授業でモナリザの話になりました。モナリザは皆さんも御存知の通り、レオナルド・ダヴィンチの傑作で、ルーブル美術館に収蔵されています。1974年(昭和49年)に一回だけ日本に来て、東京国立博物館で公開されたことがありました。その英語の先生はわざわざモナリザを見るために、青森から夜行列車に乗って(当時東北新幹線はまだ開通していませんでした)東京に来て、感動してモナリザを見たそうです。
その先生は私に言いました。「君はモナリザを見たか。」モナリザが公開された時、私は小学校6年生で、2時間も3時間も並んでモナリザを見たいとは思いませんでした。実はモナリザが来日したことには興味はありました。それは美術そのものが好きで、その頃毎週1冊ずつ発売される世界美術全集を少ないおこずかいを工面して買ってファイルしているぐらいでした。でも、当時のニュースで、ものすごい混雑ぶりが報道されていて、その行列に並ぶ気は起きませんでした。
「いいえ、見ていません。」と私は答えました。するとその先生は言いました。「馬鹿だなあ。何で見に行かなかったんだ。もう二度と日本には来ないんだぞ。」モナリザを見なかったことが「馬鹿なこと」だとは納得できなかった私は少しムッとして言いました。「ルーブルで見るので東京で見る必要はありません。」周りのクラスメートは私が冗談を言ったと思って笑いました。先生はちょっと鼻白んだようで、モナリザの話題を打ち切って授業に戻りました。
そのことがあった後、私は東京に戻って大学に進学し、さらに大学を卒業して都立高校の教師になりました。青森の高校の英語の授業のやりとりは決して忘れることはなく、必ずフランスに行き、ルーブル美術館に行くことを心に誓っていました。そして、夏休みの部活動の指導の隙間を何とか確保し、フランスに行くことができ、ルーブル美術館に着いた時は感無量だったと記憶しています。
ルーブル美術館は広大でした。1日で見て回るのは不可能な広さでした。そして展示されている美術品は、私がおこずかいを工面して買った世界美術全集に掲載されている有名な作品ばかりでした。どこをどのように通ってモナリザの前にたどり着いたのか全く覚えていません。遠目に「あそこにモナリザがいる」ということが分かり、真っ直ぐにモナリザの前に進みました。モナリザは厳重にガラスで守られていて、大勢の見物客で絵の前になかなか進めませんでした。やっとモナリザの正面に立った時、想像していたよりも小さな絵だという印象を持ちました。絵の美しさ、謎の微笑を鑑賞するよりも、約束を果たしたというホッとした気持ちになりました。
さて、一昨日から上野の国立科学博物館で大英自然史博物館展が始まりました。始祖鳥の化石のホンモノ(写真では誰もが一度は見たことがあると思います)が展示されています。
「君は始祖鳥を見たか。馬鹿だなあ。もう二度と日本に来ないんだぞ。」

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