2017
06.12

紙の動物園

日本に暮らしている私たちの多くは、お隣の中国や韓国が第二次世界大戦後にどんな経緯を経て現在に至っているかをほとんど知りません。お隣の国の歴史にあまり興味がないだけでなく、自国の歴史についてもほとんど興味がないという困った傾向をもっています。歴史に興味がなくその無知さ加減が、一層隣国での反日的なキャンペーンをエスカレートさせている遠因となっているのではないか、とも思えます。
第二次大戦後の中国は蒋介石の率いる国民党と毛沢東の率いる共産党との内戦を経て、共産党の一党支配の国となりました。共産党を指導する毛沢東は近代化と工業化を推進するために「大躍進政策」を進めたり、党内の権力闘争を勝ち抜くために「文化大革命」を起こしたりして、結果的に中国の発展を阻害したことは否めません。こうした内戦や経済政策、文化大革命が現在の中国にどのような傷を残したのか、小平による指導後、経済的に急激に成長した現在の中国からはうかがうことは困難です。私たちの知っている現在の中国は、日本を抜いて世界第2位の経済大国に成長し、依然として高い成長力を有していること、世界の工場としての生産力を維持し最近では高度な技術力を有するようになってきていること、経済成長とともに富裕層だけではなく一般市民による購買力が向上して魅力的な市場となってきていること、国際社会での政治的な影響力を強め、軍事的に膨張して周辺国と軋轢が生まれてきていること、といったことがあげられます。
私が大学生のときに同じ学科に中国からの留学生がいましたが、きわめて優秀な頭脳をもった方でした。これまで中国からの留学生の方たちとお話する機会がありましたが、私が会った中国の留学生はみなきわめて優秀な方ばかりで、日本の学生は到底かなわないと会うたびに思ったものです。現状として中国が大きく成長している原動力は、こうした優秀な若い人たちの活動に負うところが大きいのではないかと推測します。
さて、戦後の政治的な混乱を芸術や文学といった創作活動に反映させることは、中国の現在の政治体制からすると困難なことではないかと想像します。しかし、戦後の政治的な混乱による傷は必ず存在するはずで、将来のどこかで誰かによって作品に反映されていくのではないか。そんなことを考えていたところ、そうした傷を小説の中に取り入れた作品を読みました。ケン・リュウという作家です。
ケン・リュウは中国に生れ、子供のときにアメリカに移住した人です。法科大学院(ロースクール)を卒業して弁護士として仕事を行うだけでなく、PCのプログラマーとしての仕事も行い、なおかつ小説まで書いてしまうというすごい人です。彼の書いた小説のジャンルはSFに分類されているようですが、単なるSF作家としてではなく、中国人がもっているだろうと思われる傷を、文化の異なる他国の人(アメリカ人や日本人など)が理解できるように小説に取り入れていること、アジア的なものの考え方とヨーロッパ的なものの考え方との対立を小説に反映させていることが優れている点だと思います。もっとも作品の中には純粋なSF小説もあり、中国的なところやアジア的なところが全く無い作品もありますが、アメリカに移住した中国人が自国の様々なことを引きずりながら生きていくというとは、こういうことなのかと感じさせる作品が多々あります。
興味がある方はお読みください。ハヤカワ文庫から「紙の動物園」というタイトルです。続編の短編集も出ています。

Copyright Tokyo Metropolitan KOGEI High School. All rights reserved.