2017
10.14

仕事とプライド

「働く」とは本来「はた(傍、端)=周りの人たち」を「楽にすること」を指すことばです。したがって、職業に就いて仕事をするということは、すなわち社会に役に立つことを行うことで報酬をいただくことです。「世のため、人のため」になるからこそ、自分の仕事にプライドをもつことができるわけですし、一生懸命に働くこともできるわけです。
アメリカの国務長官を務めたコリン・パウエルの著作「リーダーを目指す人の心得(飛鳥新書)」の中に、エンパイアステートビルの清掃担当者の話がありました。ニューヨークにあって世界で最も有名なこのビルには、毎日大勢の観光客が訪れます。そのエンパイアステートビルを紹介するテレビ番組があったそうで、テレビのインタビューは清掃担当者にまで及んだということです。そのインタビューで「我々の仕事は、明日の朝、このすばらしいビルに世界各地から多くの人が訪れたとき、ビルがぴかぴかに光るほどきれいで美しい状態であるようにすることです。」と清掃担当者が答えたそうです。このエピソードは仕事にプライドをもつことの大切さを端的に表していると思います。
新しい仕事や職業が生まれて、今の子供たちの多くが現在存在していない仕事や職業に就くという予測を、私はこれまで何回が紹介してきました。しかし、生まれたばかりの新しい仕事や職業のすべてが社会で定着して、大勢の人たちの雇用を作り出すわけではありません。例えばYoutuberは世界でせいぜい100人か200人もいれば十分でしょう。しかも10年後この仕事が同じシステムで存在しているかどうかも分かりません。新しい仕事や職業に就き、誇りをもって仕事をしている人たちが出現する反面、仕事の面でプライドをもつことができない人たちも大勢出てきてしまうことも考えられます。
そして、残念なことですが、こうした過渡期の時代においては、社会にとって有益ではない、反社会的・非社会的な仕事も生まれてきます。インターネット上のワンクイック詐欺などはその典型ということができます。ワンクイック詐欺のような明らかな違法行為ではないけれども、道義的には認められないような仕事も出てきています。仕事の内容に気が付かないでそういった会社に入ることになり、犯罪行為スレスレの仕事をしなければならなくなったら、良心は傷つけられボロボロになってしまいます。粗悪品や認可されていない商品を売り歩く訪問販売の仕事をしている人たちは、最初からそういう仕事だと知って会社に入ったのでしょうか。そして自分の仕事にプライドをもってやっているのでしょうか。インターネットを検索すると、化粧品を訪問販売で売り歩いている会社の社是10か条がアップされていました。お年寄りからお金をむしり取り、相手をだまして売りつけるような内容でした。電話でのセールスを行っている人たちも同様でしょう。オレオレ詐欺の電話の「かけ子」と紙一重の状況であるように思います。インターネットやSNS等にアップされた動画や写真に「いいね」を連発する仕事をしている人たちも、自分の仕事にどれだけ社会的な意味や意義があると感じているのでしょうか。
お金を稼ぐために、あるいは生きていくために仕方がない、という話はよく聞きます。しかし、若い人たち、特に工芸高校の生徒諸君が、こうした「だまし」をベースとした仕事を選択しないですむように、職業選択ができる力を身に付けて欲しいと思います。以前、不動産のセールスでしつこく電話をかけてきた人に、思わず「そんな仕事してないで、他にやるべき仕事があるんじゃないの?」と言ってしまったら、逆切れをされてひどい罵声を浴びたことがあります。よほど大きなストレスを抱えてセールスの電話をしていたのでしょう。仕事にプライドをもてず、逆に人としての誇りを傷つけられることほど、人間にとってつらいことはありません。
将来に必要となる資格を取得すること、仕事に必要な技術を身に付けることは、相応の努力が必要で大変かもしれません。しかし、自分が選んだ仕事を誇りとプライドをもって、やり続けていくことができるための大事な切符です。そのための工芸高校での勉強だと考えて欲しいと思います。

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