2017
12.18

「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」の内容がす ごい!

 以前の校長ブログで「新しい仕事と資金の集め方」ということを書きました。その中でクラウドファインディングについて触れました。新しい仕事はどのように生まれてきて、その仕事を進めていくためのお金の集め方についての考察を述べましたが、私の拙い短文よりも、同じテーマを実践に基づいてきちんとした形にした本が出ていることを知りましたので、紹介したいと思います。「革命のファンファーレ 現代のお金と広告 西野 亮廣(幻冬舎)」です。
 西野 亮廣(にしの あきひろ)さんは、お笑いコンビ「キングコング」のつっこみを担当している芸人で、かつ絵本作家でもあります。テレビのお笑い番組をあまり見ないのでよくわからないのですが、どうやらよく売れているお笑いコンビのようです。また、西野さんの絵本作品も見たことがありませんが、こちらも大ヒット絵本である「えんとつ町のプぺル」の作者として有名です。工芸生にとっては西野さんのどちらの顔が有名でしょうか。

 さて、その絵本作品である「えんとつ町のプぺル」を出版するにあたって、どのようにしてお金を集めて絵本を出版したかという実践と、それに伴う様々な経験が、「革命のファンファーレ」の主題となっています。
 まず資金集めとして、西野さんはクラウドファインディングで、絵本を出版するための費用を集めました。どれくらいのお金を集めることができたかというと5650万4542円で、この額はクラウドファインディングで集められた資金としてはきわめて高額ということです。そして絵本は30万部というヒット作品となり、絵本の個展には60万人もの人が来場しました。
 なぜ、これだけの金額を集めることができたのか。クラウドファインディングで資金集めをしているタレントさんは他にもいるけれども、必要な資金を集められる人ばかりではない。お金とは何か、クラウドファインディングとは何かと、いう問いに対しての答えをちゃんともっていることが必要である、と西野さんは言います。西野さんが本の中では、「お金」とは「信用を数値化したもの」、「クラウドファンディング」とは「信用をお金化する為の装置」と述べています。だから、クラウドファインディングで資金集めをしたいなら、まず「信用を勝ち取ること」を行わなければならないと主張しています。
 これだけを読むと取り立てて何てことないように思われますが、この考え方の背景には、「職業そのものがなくなっていく時代に突入している」「副業、兼業、転職が常識になりつつあるこれからは、好きなことを仕事化するしか道が残されていない時代」「頑張れば報われる時代は終わり、変化をしなければ生き残れない時代に、僕らは立ち会っている」といった時代認識があり、これまでの職業観や金銭観では生きていくことができない、社会全体に根本的に大きな変革が起きていて、その変革は親世代も経験していないので、自分で経験して生き抜いていかなければならない、と考えています。

 絵本である「えんとつ町のプぺル」を制作する過程においても、西野さんの考え方はこれまでの絵本づくりの常識とかけ離れていました。絵本は一人の絵本の作家がストーリーを書き、挿絵を描き、編集、装丁のすべてを担当するのが当たり前です。しかし、西野さんは一冊の絵本を大勢のスタッフが担当する分業制で制作したのです。これまでなぜ一人で絵本をつくっていたのか。それは絵本はせいぜい売れても5000部が限度であり、収益から考えても一人で作業を行わざるを得ない。けれども、クラウドファインディングで資金を調達することによって、映画のように大勢のスタッフで一冊の絵本を制作することを可能としてしまいました。そして、さらにすごいのは、制作した「えんとつ町のプぺル」を惜しげもなく、インターネットで無料公開してしまったことです。これまでの考え方では、著作物を無料で公開することはあり得ることではなく、有料公開するか、一部を限定して公開するなどにより、著作権を守ることが常識でした。西野さんはあえてこの常識を打ち破ることで、逆に「えんとつ町のプぺル」の販売数を大きく伸ばしたのでした。
 このインターネットでの無料公開についても、なぜそのようにしたのか「革命のファンファーレ」の中で述べられていて、「人が時間やお金を割いて、その場に足を運ぶ動機は、いつだって「確認作業」で、つまりネタバレしているモノにしか反応していない」「インターネットが物理的制約を破壊したのちなら、それに合わせて売り方も変化させていかなければならない」「「無料公開したら売り上げが落ちて、クリエイターにお金が入らなくなるだろ!」というのは数年前の常識だ。今は「無料公開しなかったら、売り上げが落ちて、クリエイターにお金が入らなくなる」というケースが増えてきている。数年前の常識に根を張ってしまうと、時代の変化と共に沈んでしまう」といったことが述べられています。
 さらに、西野さんは「えんとつ町のプぺル」の事前予約の販売サイトを立ち上げ、その申し込み分の1万冊を出版社に発注し、発注した際に支払った2435万1138円の領収書をインスタグラムにアップしました。それをテレビが取り上げ話題となり、絵本の販売数をさらに押し上げました。
 さらにさらに…といった具合で「えんとつ町のプぺル」を売るための新しい発想を次々と実現し、実行していった戦略が「革命のファンファーレ」にたくさん出ています。

 西野さんが実行した戦略は、これから工芸生がデザイナーやクリエイターとして、どうすれば世の中に出て行くことができるか、活躍していくことができるかというヒントが満載であるように思います。いい作品をつくっていればチャンスがやって来るわけではない。いい仕事を行っていれば、収入が上がっていくわけでもない。インターネットの発達が世界を根底から変えてしまっていることは、誰もが理解していますが、それによって、お金の役割がどのように変わってしまったかとか、作品を売るにはどのように広告を行っていけばよいのかとか、必要な資金をどうやって集めていけばよいのか、などは誰も経験していないので教えてくれる人もいません。自分で考えて道を切り開いていかなければならない。西野さんはそれを自分で考え、考えたことをやり遂げて「えんとつ町のプぺル」をベストセラーの絵本にしました。そしてそのノウハウを「革命のファンファーレ」で著作してさらに販売数を伸ばしています。明らかにされた絵本の販売のためのノウハウは、すでに多くの人が模倣していると思いますので、新しいやり方は自分で考えなければなりませんが、西野さんの考え、実行したことは、自分で新しい方向を考えていく上でとても参考になるのではないでしょうか。

 世の中はどんどん変化していて、その変化の先端を読み切ることと、誰よりもクリエイティブな仕事を行うこととは密接に関係しているように思います。技術を磨き、知識を身に付けることは当たり前で、さらに世の中の動きをよく見ながら、自分の才能を多くの人に認めてもらうための算段を上手に行って欲しい。工芸生にそうした力が備わっていくことを願っています。

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