2017
12.25

パッケージデザインとしてのレコードジャケット

 私が中学生だった頃、新しいオーディオが次々と発売された時期がありました。高性能アンプとレコードプレーヤー、FMラジオチューナーとカセットデッキ、そして大きなウーハーを備えたスピーカーのセットが、音響メーカーや家電メーカーから何種類も売り出されました。こうしたオーディオセットが出現する前は、レコードプレーヤー一体型のオーディオ(ステレオと呼ぶ方が一般的でしたが)が普及していましたが、この頃にはアンプとレコードプレーヤーとが分かれるタイプとなっていました。オーディオに興味をもつ人の増加を受けて、オーディオ雑誌もいろいろと刊行され、掲載された新製品のオーディオの性能対比表を一生懸命に見た記憶があります。
 オーディオを自分で制作することも流行りました。現在PCを、部品を買い集めて自作する話を聞きますが、同じ感覚だと思います。設計図や必要な部品はオーディオ雑誌に掲載されているので、それを見ながら秋葉原の電気街に買いに行きます。当時の秋葉原の電気街は、今でもそうかもしれませんが、真空管やトランジスタ、発光ダイオードやコンデンサーの類いに詳しいプロか、もしくはプロ級の人たちばかりが集まって、かごに入ったパーツをひっくり返しながら、専門的な話に興じている様子があり、中学生にはおいそれとは近づけない独特な雰囲気があり、現在のように街全体として華やかなサブカルチャーの発信地ではありませんでした。

 私も親に散々ねだってオーディオを買ってもらい、宝物のように大事にしていました。当たり前ですが、オーディオは音楽を聴くための機械ですので、オーディオを購入したら、レコードを買わなければ意味がありません。親はオーディオは買ってくれましたが、レコードは買ってはくれませんので、こずかいを貯めて1枚1枚買い足していくしかありません。しかし、中学生にとってLPレコード1枚3000円は高額で、簡単には購入できず、お年玉でやっと買ったレコードを大事に何回も聞き返すといったことをしていました。
 同年代の人たちと話をするときに、会話の「ネタ」の一つとして初めて買ったレコードは何?という話があります。中学生や高校生のお金が無かった時に、こずかいで何のレコードを買ったのか?といった話です。ある人の最初のレコードはジャズの名盤であり、ある人はクラシックの名曲であり、またある人は日本のロックバンドのアルバムで、その曲にまつわる思い出をあれこれと語り出すと、時間を経つのを忘れます。
 買えないレコードの音楽はFMラジオからカセットテープに録音するのが当たり前でした。FMラジオの番組は、番組表が載っている雑誌を購入し、何日の何時から、何の曲がかかるのかをあらかじめチェックして録音しました。これをエアチェックと言いました。カセットテープにもこだわりがあり、高性能のメタルテープには特にお気に入りの曲を録音しました。また、エアチェックした曲をセレクトしてオリジナルの音楽曲集を作成する人もいました。このカセットテープ文化はソニーのウォークマンが発売されることで、ピークとなったように思います。
 さて、初めて買ったレコードジャケットがどんなであったのか?初めて買ったレコードの話をしていると、そんな話も出るときがあります。また、レコード屋さんで縦置きに並んだレコードを一枚一枚つまんで持ち上げ、ジャケットを眺めた思い出話が出るときもあります。人によっては強く記憶に残っているレコードジャケットがあったり、レコードジャケットにうんちくを傾ける人もいたりして、例えばビートルズのジャケットになぜこんな写真が使われたのか、説明してくれます。

 自分が買ったレコードジャケットのデザインを思い返し、工芸高校にいて生徒諸君の実習授業を見るようになった現在では、あらためてレコードジャケットのデザインの重要性に気が付きます。レコードジャケットはそのレコードに録音されている音楽の世界を表現する一部で、ジャケットの印象で音楽の聴き手はその曲の聴き方を方向付けているように感じます。現在では音楽を購入する際には、CDの場合もありますが、ダウンロードによる場合が増えました。ダウンロードだとジャケットのデザインを気にすることなく、レコード盤とか、ディスクといった手に取ることのできる形でもなく、データとして手元に入って来ます。音楽は、純粋に聴き手が自分の聞きたいように解釈すればよいので、ジャケットを介した送り手の世界観の押し付けは、本来ならば不要のはずですが、実際にはそんなには単純化できるものではない。以前はジャケットデザインが、音楽を聴く時のとても大事な雰囲気づくりや聴き手の方向性を示唆するものとして機能していたのではないか、そんな気がします。
 実は先日に日テレの「バンキシャ」を見ていたところ、レコードが復活しつつあり、販売が拡大しているという話をやっていました。また、レコードジャケットも大事な役割を果たしていることの指摘がありました。
 パッケージデザインとしてレコードジャケットが果たしている役割はとても大きい。そんな思いを強く感じつつ、デジタル全盛、データ重視の時代ではありますが、見直されるパッケージデザインが他にもあるかもしれません。

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