2017
03.29

本の辞書か、辞書アプリか

今から30年以上前、教員になって初めてもらったボーナスで、日本国語大辞典という国語辞典としては最大級の規模とレベルの辞書を買いました。本屋さんで割引してもらいましたが、10巻本の縮刷版で10万円以上の値段だったと記憶しています。しかし、どうしても欲しい辞書だったので、他の欲しいものはたくさんあったのですが、新しい服とか新しい腕時計とかを我慢して辞書を購入しました。購入した辞書を早速本棚に入れ、時々分からない言葉があると、いちいち書棚から取り出して、重たい辞書を膝に乗せてページを繰りながら調べるのが楽しかったです。その後何回か引っ越しましたが、そのたびにこの辞書を持ち歩いていて、今住んでいるの家の本棚にもちゃんと収まっています。
ところで、このブログにも書きましたが今年スマホを新しくしました。まったく使いこなせないのではありますが、適当にいじくりまわしていると、AppStoreなるところにいろんなアプリがあることに気が付きました。それを眺めていると、日本国語大辞典がアプリとして売られていることが分かりました。値段を見ると何と4800円!がっくりきました。あの日本国語大辞典が、国語辞典の中で最大級の辞書がたった4800円で売られてしまう世の中になったのか!
そもそも辞書の編纂は大変な労力が必要と言われています。日本国語大辞典にいたっては、上田万年・松井簡治にはじまった辞書の編纂作業が、親子3代に渡って継続されたと言われています。さらに金田一京助、新村出、諸橋轍次といった日本を代表する国語学者、漢語学者が編集顧問として加わっている辞書で、言うならば日本語に関わる研究者の英知の結晶と言っても過言ではないと思います。
辞書の編纂を題材とした小説に「舟を編む(三浦しをん作 光文社文庫)」という作品があります。辞書編集の担当者となった出版社の社員の奮闘をほんわかとした筆致で描く、なかなか面白い作品です。三浦しをん氏は小説を書くにあたり、丁寧に取材をしていらっしゃるということなので、小説の中で描かれている辞書編集の作業手順や作業工程はおそらく正しく事実をなぞっているのではないかと想像します。興味がある人は小説をお読みください。「舟を編む」は映画にもなり、話題作だったように記憶しています。
さて、日本国語大辞典がアプリになっていることがショックだったというお話を、都立工芸の国語科の先生方にお伝えしたところ、ある先生が調べてくださり4800円ではなく、7800円が正しい値段であること、アプリになっているのは日本国語大辞典の精選版であることを教えてくださいました。精選版はやや収録語数が少ないですが、それでも辞書としてはきわめて大規模な国語辞典であることは変わりありません。
そんなわけでこのアプリを購入しようか迷っていますが、購入してしまうと何か大事なことを失ってしまうような、何に負けてしまったような後悔の念が起きはしまいか、そんなことも心をよぎります。実は最近本棚から日本国語大辞典を取り出して膝に乗せる機会がめっきりと減っているのは事実です。なぜかというと、分からない言葉があると、すぐにググってしまうからです。堕落以外の何ものでもありませんが、スマホを使って言葉を調べるのであれば、ググるよりも日本国語大辞典のアプリで調べたほうがよいようにも思っています。

2017
03.24

「思い」を形にしてください

今日は修了式では、皆さんに来年度の作品制作のお願いを話したいと思います。
東日本大震災のときに皆さんは何年生だったですか。小学生だった人が多いのではないかと思います。震災直後のテレビのコマーシャルは、ほとんどのスポンサーが自粛していたため、ACジャパン広告機構のCMしか放送されないような状況だったのを覚えていますか。
ACジャパン広告機構のCMは何種類かあったように思いますが、その中でも、
「「こころ」は だれにも見えないけれど 「こころづかい」は見える
 「思い」は 見えないけれど 「思いやり」は だれにでも見える」
というCMがあったのを覚えているでしょうか。実は私も忘れていたのですが、調べものをしていて、たまたまこの言葉の出典である元の詩に行き当たり、ああそういうCMが流れていたなあということを思い出しました。オリジナルは宮澤章二という詩人の「行為の意味」という詩です。ちょっと読んでみます。

行為の意味
—–あなたの<こころ>はどんな形ですか
と ひとに聞かれても答えようがない
自分にも他人にも<こころ>は見えない
けれど ほんとうに見えないのであろうか

確かに<こころ>はだれにも見えない
けれど<こころづかい>は見えるのだ
それは 人に対する積極的な行為だから

同じように胸の中の<思い>は見えない
けれど<思いやり>はだれにでも見える
それも人に対する積極的な行為だから

あたたかい心が あたたかい行為になり
やさしい思いが やさしい行為になるとき
<心>も<思い>も 初めて美しく生きる
—–それは 人が人として生きることだ

宮澤章二は他にも数多くの作品を残した詩人だそうですが、一番に有名なのは「ジングルベル」の歌の歌詞ではないかと思います。
ところで、都立工芸では授業で作品のプレゼンを行なうことが多く行われていますね。特に卒業学年になると、各科では課題研究のプレゼンを行なっています。今年度末、各科で行われたこうした課題研究のプレゼンの中に、工芸高校の先生やクラスメート、先輩や後輩に「感謝の思い」を作品の形にしたいと考えた、というものがありました。いろんなことを教えてもらった、苦しいとき、つらいときに支えてもらった、工芸祭でお世話になった、こうしたことに対しての「感謝の思い」をぜひ作品として表現したいと考えて、この作品をつくりました、と言うのを聞き、すばらしいことと感心しました。
そこで皆さんへのお願いになるのですが、皆さんが進級して作品制作をしていくにあたり、ぜひ何かどこかで、誰かに対しての「感謝の思い」を形にすることにも取り組んでほしい、ということをお願いしたいと思いました。もちろん皆さんの中には自分がつくりたいものがはっきりしていて予定ができている人もいると思いますので、可能な限りで結構です。制作の中には一つでもそうしたことに取り組んでもらえるといいなあ、と考えました。宮澤章二の詩では「思い」は見えない、とありますが、皆さんは「思い」を形にして見ることができるものとすることができる。それは工芸生のとてもすばらしいところでもあると考えます。
4月になると新入生も入学してきます。短い春休みですが、この期間にエネルギーをためて、新年度に向けてよいスタートがきれるように準備をお願いします。

2017
03.21

君はモナリザを見たか

私が卒業した青森県立高校では、授業中生徒の集中が切れて生徒を授業に引き付けることが困難になると、東京からの転校生(私のこと)に話題を振って、生徒の集中を引きつけようと試みる先生がいました。私にとっては迷惑なことで、つっけんどんな答えをして、今から思うと随分と先生方に失礼な言動も取ったように思います。
そんな中で、ある英語の授業でモナリザの話になりました。モナリザは皆さんも御存知の通り、レオナルド・ダヴィンチの傑作で、ルーブル美術館に収蔵されています。1974年(昭和49年)に一回だけ日本に来て、東京国立博物館で公開されたことがありました。その英語の先生はわざわざモナリザを見るために、青森から夜行列車に乗って(当時東北新幹線はまだ開通していませんでした)東京に来て、感動してモナリザを見たそうです。
その先生は私に言いました。「君はモナリザを見たか。」モナリザが公開された時、私は小学校6年生で、2時間も3時間も並んでモナリザを見たいとは思いませんでした。実はモナリザが来日したことには興味はありました。それは美術そのものが好きで、その頃毎週1冊ずつ発売される世界美術全集を少ないおこずかいを工面して買ってファイルしているぐらいでした。でも、当時のニュースで、ものすごい混雑ぶりが報道されていて、その行列に並ぶ気は起きませんでした。
「いいえ、見ていません。」と私は答えました。するとその先生は言いました。「馬鹿だなあ。何で見に行かなかったんだ。もう二度と日本には来ないんだぞ。」モナリザを見なかったことが「馬鹿なこと」だとは納得できなかった私は少しムッとして言いました。「ルーブルで見るので東京で見る必要はありません。」周りのクラスメートは私が冗談を言ったと思って笑いました。先生はちょっと鼻白んだようで、モナリザの話題を打ち切って授業に戻りました。
そのことがあった後、私は東京に戻って大学に進学し、さらに大学を卒業して都立高校の教師になりました。青森の高校の英語の授業のやりとりは決して忘れることはなく、必ずフランスに行き、ルーブル美術館に行くことを心に誓っていました。そして、夏休みの部活動の指導の隙間を何とか確保し、フランスに行くことができ、ルーブル美術館に着いた時は感無量だったと記憶しています。
ルーブル美術館は広大でした。1日で見て回るのは不可能な広さでした。そして展示されている美術品は、私がおこずかいを工面して買った世界美術全集に掲載されている有名な作品ばかりでした。どこをどのように通ってモナリザの前にたどり着いたのか全く覚えていません。遠目に「あそこにモナリザがいる」ということが分かり、真っ直ぐにモナリザの前に進みました。モナリザは厳重にガラスで守られていて、大勢の見物客で絵の前になかなか進めませんでした。やっとモナリザの正面に立った時、想像していたよりも小さな絵だという印象を持ちました。絵の美しさ、謎の微笑を鑑賞するよりも、約束を果たしたというホッとした気持ちになりました。
さて、一昨日から上野の国立科学博物館で大英自然史博物館展が始まりました。始祖鳥の化石のホンモノ(写真では誰もが一度は見たことがあると思います)が展示されています。
「君は始祖鳥を見たか。馬鹿だなあ。もう二度と日本に来ないんだぞ。」

2017
03.14

人間国宝の大先輩の記事

都立工芸高校の卒業生からは、過去に4名の人間国宝となられた方が出ています。
そもそも人間国宝は何か。重要無形文化財保持者として、その分野で認定されたきわめて高い技術や能力をもつ人物を指す通称ということです。無形文化財とは、「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いものをいう(文化財保護法第2条第1項第2号)。」ことです。そうした人間国宝に認定される方が4名もいらっしゃるということは、この学校の技術指導の高さを表していると思います。
さて、その都立工芸高校出身の人間国宝である須田賢司先生の特集記事が、3月11日の朝日新聞土曜日版(be on Satuaday)に掲載されていました。「指物と漢詩 モダンに融合」という見出しになっていて、須田先生が中学校のころ教科書で読んだ魯迅の「故郷」や吉川幸次郎、三好達治「新唐詩選」、竹内好の文章に影響を受けたことが記事になっていました。
そして、こうした記事の内容に加えて、須田先生の工芸観についても書かれていて、「工芸品とは実用の形を借りながらも鑑賞に耐えうる美しいもの、持つことで生活が豊かになるもの」といった言葉が紹介されていたり、「海外に指物の技術を教えに行くと、工芸は「クラフト」と訳されることが多い。しかし、実用的な技術の意味合いが強いクラフトという言葉は、生活で使うものでありながら芸術性を兼ね備えているという自身の工芸観に照らすと、どうもしっくりこない」ことや「カラオケという言葉が今では世界で通じますよね。同じように、コウゲイという言葉で外国でもわかってもらえるように、海外で広めたいと思っています」というお話が紹介されていたりしています。
この記事は朝日新聞のウェブサイトの会員ページでも見ることができますので、お読みいただくとよいと思います。

2017
03.11

エルメスの手しごと展

エルメスの手しごと展を見てきました。場所は表参道ヒルズです。
ところで、私の20歳代は日本の経済が一番強かったバブルの時代に重なります。津軽の田舎の県立高校を卒業し、久しぶりに東京に戻った私の目に映ったのは、世の中が経済、お金を中心に動いている資本主義絶頂の社会でした。株価や地価は右肩上がりの上昇を続け、日本の誇る製造業は世界を席巻し、企業の海外進出が急激に進んだ時代でした。世界中の高級ブランドが日本に入ってきて、20歳代の若者にとってはどれもこれも欲しくてならない品物ばかりでしたが、何せ高級品なので高価でなかなか買うことができない。エルメスだけでなく、フランスやイタリア、ドイツのブランド品を何とか安く手に入れて身に付けようと、今考えると、とても無駄な努力を結構真面目に一生懸命していました。
さて、エルメスの手しごと展は、そのフランスの高級ブランドであるエルメスの職人が、実際に作業をしながら説明を行うというイベントです。私が行った時は、午後の一番混んでいた時間かもしれません。入場規制が行われ、入場するのに20分ぐらいかかりました。
デモンストレーションを行なっていた職人さんは、宝飾職人、時計職人、製版職人、手袋職人、ネクタイ職人、皮革職人、鞍つくり職人など、複数、多分野に渡ります。ガラス工房はVRで行われ、ペーパークラフトはタブレットで行うこともやっていました。
入り口から入場して左側に宝飾職人で、ブレスレットに極小のダイヤモンド粒を一粒ずつ、それこそ山ほど石留めしていました。アートクラフト科の彫金室で見たことがあるような工具が机の上に置かれ、職人さんは顕微鏡のような拡大鏡で作業個所を拡大しながら、ダイヤモンドをブレスレットに開けた穴に埋め、ダイヤの周りの金属を引き上げるようにかぎ爪をつくって、ダイヤを留める作業を行っていました。ブレスレット本体をどうやって作るかというと、やはりこれもアートクラフト科でやっているワックスの型に貴金属を流し込む技法でした。職人さんに質問したところ、ブレスレットのデザイナー、ワックスを削って鋳造する職人、石留めする職人は別人だそうですが、職人は一通りのことをできなければいけない、ということでした。使っている工具は自分で作ることも多くあり、金属が固いのでしょっちゅう工具の先端を削らなければならなくなる、ということでした。
宝飾の隣が時計職人で、その向かい側が食器の絵付け、さらに奥にはスカーフの原画をトレースする製版職人がデモをしていました。製版職人といっても、とてもエレガントでおしゃれなフランス女性で、宝飾の職人や時計職人、皮革の職人がいかにもオヤジ的職人風情を醸し出しているのと対照的でした。彼女の仕事はスカーフの原画がデザイナーから届けられると(手描きであることが多いそうです。)その原画をスキャンし、フォトショップを使って、大きなタブレット(ざっと横幅は80cm〜90cmはありそう)上で正確にかつ忠実にトレースすることでした。専用のペンを使い、グラフィックアーツ科やデザイン科が、通常のパソコン上で行なっているのと同じ作業を、その大きなタブレットで極めて緻密に細心の注意を払いながら行なっていました。今回は、デモ用に、日本の侍をモティーフにしたデザインを持ってきていて、その原画はとても細かく、作業がとても多くかかり、トレースするのに1000時間以上、1年間以上の時間を使ったそうです。
とにかく興味深いことがたくさんあったので、結構図々しくいろいろと職人さんに質問しましたが、通訳担当の人が職人さんのフランス語を丁寧に通訳してくださいました。実は展示を見る前から、仕事の分業体制はどうなっているのか、デザインと職人の仕事分担はどうなっているのかを聞いてみたいと思っていて、そのことを聞ける限り聞いてみたところ、デザイナーと職人とははっきり仕事が分かれており、職人の中でも作業の持ち分がはっきり分かれていることが分かりました。
このイベントは結構大々的に宣伝されていて、マスコミにも取り上げられています。マスコミの論調は、なぜエルメスが高級ブランドなのか、高価であるのか、といった切り口であることが多いですが、私にはそんなことよりも、19世紀にヨーロッパで確立したフランスやイタリア、ドイツの手工業、職人技による工業製品を、明治期の日本人がどうにかして日本でもできるようにしたいと考え、その技術を必死に輸入したこと、そして輸入されたヨーロッパの技術が、日本の江戸期に確立していた独自の技術や手法と融合し、今、現在の都立工芸高校の授業として毎日行われてることに強い感動を覚えました。
エルメスの手しごと展は3月19日まででしかも13日は休みです。期間が短いのですが皆さん是非見に行ってください。決して損はありません。入場無料です。

2017
03.10

自分自身の人生のデザイナーになること(卒業式式辞)

ただ今、卒業証書をお渡しした卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。そして、今まで暖かくお子様を見守り、今日の日を迎えられました保護者の皆さま、誠におめでとうございます。
 また、卒業式の開催にあたりまして、ご来賓の皆様には、ご多忙中にもかかわらずご参列いただきましたことを、心より御礼申し上げます。
 
さて、あらためて言うまでもなく、都立工芸高校は、ものづくりとデザインを学ぶ都内唯一の専門高校として、これまでも多くの卒業生を送り出してきました。今のこの席にいる卒業生の皆さんも、各科による専門性、学習内容の違いはありますが、幾多の課題制作、実習授業を乗り越え、知識と技術を身に付けて、今日の日を迎えました。
私は、都立工芸高校で生徒たちが学んでいるものづくりやデザインは、これからますます社会から必要とされるようになるだろうと考えています。例えば我が国における少子高齢化は一層進んでいますが、この少子高齢化は日本だけの問題ではなく、お隣の韓国や中国をはじめ、世界中の多くの国で急激に進んでいると言われています。
高齢化した社会で求められるのは、これまで以上に安全で、かつ安心して生活できる環境であり、使いやすい身の回りの品々であることは言うまでもありません。若くて元気で体が自由に利くときには気にならなかったことが、年を取ると、とても大きな障害となり、生活しにくさ、不便さを発生させていくことになります。年を取っていろいろと不自由が起きるようになってきても、若くて元気な人と同じ生活の質を共有できるようにしていかなければなりません。こうした考え方は、一般的にバリアフリーやユニバーサルデザインとして、今や多くの人々に受け入れられています。インターネットを検索すると、ユニバーサルデザインの商品を多数見ることができますが、こうした新しい考え方を具体的に進めていくことができるのは、ものづくりやデザインを学んでいる都立工芸高校の卒業生ではないかと思います。

卒業生の皆さんは進学する人、就職する人、進路は様々でありますし、今、心に抱いている将来の夢も多種多用であると思います。広告デザイナーになって自分の作品が街中で貼り出されるようになりたい、宝飾デザイナーになってブライダルジュエリーのデザインを手掛けるようになりたい、使った人誰もが便利さを感じる家具のデザインをやってみたい、などなど、就職先の会社での仕事への夢、大学で勉強したいことの希望、いろんな夢や希望をもっていると思います。そうした夢や希望は、都立工芸高校を卒業する皆さんしかもつことができないものであり、他の高校では学ぶことができない「デザイン」や「ものづくり」を学んだ皆さんだけがもつことができる夢や希望であると考えます。そして、その夢や希望を、みなさんが進路先で実現することが、例えばバリアフリーやユニバーサルデザインといった新しい考え方が一層社会の中で進んでいくような、これからの社会全体の在り方やライフスタイルの革新、進歩につながっていくと信じています。

確かに皆さんが巣立っていくこれからの社会は、見通しのはっきりしない、不安定な社会であるかもしれません。国際協調を否定するような不寛容な考え方が台頭してきています。紛争やテロ、難民の問題はなかなか解決の糸口を見つけることができません。世界人口の増加、資源や食糧の争奪、地球環境の悪化、富の偏在といったいろんな世界的な課題があるとともに、我が国においても自然災害が度重なって発生するなどの不安もあります。東京2020に向けて日本の社会全体が盛り上がっていこうとしている反面、平和で豊かな社会をどうやって維持していくかということも考えていかなければなりません。

しかし、これからの社会がどのように変化していっても、卒業生の皆さんが、自分の夢や希望を達成するという目的のために、自分の人生を自分でデザインできる、そういう人になっていって欲しい、皆さん一人一人が自分自身の人生のデザイナーでいて欲しい、と願っています。
そのためには社会の将来を見通す先見性をもち、自分の知識や技術を常に新しいものにしていく努力を継続し続けるとともに、様々な人とのコミュニケーションを厭わない態度も必要になってくることでしょう
繰り返しますが、みなさんは自分自身の人生のデザイナーにならなければなりません。自分の意思で自分の人生を切り拓き、夢や希望を実現するための努力、目的を達成するための能力をもつことを願っています。

毎回繰り返してきましたが、優れたものづくりは人類の進歩と福祉につながり、美しいデザイン人々を幸せにすると考えています。皆さんには、工芸高校卒業後にますます自分の力を磨き、世界の人々、社会全体に幸せをもたらす人になってもらいたいと思います。

最後になりましたが、保護者の皆様には工芸高校の教育活動に御理解と御協力を賜り、本当にありがとうございました。心から御礼を申し上げ式辞といたします。

2017
03.06

卒展2017

3月2日から東京都美術館で今年も卒展が開催されました。期間中大勢の方々に御来場いただきましたことを、この場をお借りして御礼申し上げます。そして、卒展に作品を展示するために、ずっと頑張ってきた3年生、また期間中の案内係を務めた3年生お疲れ様でした。
今年も卒業生の作品の完成度は例年に負けず劣らず高いものでした。全体を見終わった後に作品が心にいつまでも残るような印象の強い作品がいくつもありました。若者らしい思い切りとんがった作品、心に秘めている思いを一気に爆発させそれを形にいたような作品、ターゲットを明確にし、その想定に基づいたニーズをきっちりと反映させた作品、先生に教わった職人技をしっかりと習得したことが伝わってくる作品、すぐに売り物として通用するだろう作品、分野やカテゴリーにこだわらず、クリエイターとしての将来性を感じさせる作品など、じっくりと見ていると一つ一つの作品からいろんなことを感じ取ることができました。
作品に対する感想を求めるノートやメモにはいろんな意見や感想が寄せられたと思いますが、卒業していく3年生は励ましや称賛の感想ばかりではなく、辛口の意見や批評も真摯に受け止め、これからの作品制作に生かしてください。特に、グラフィックアーツ科の商品広告ポスターには、今年も多くの会社様から御批評、御指導をいただきました。直接御礼を申し上げるべきところ大変失礼ではありますが、この場を借りて厚く御礼申し上げます。会社様の中には御担当様だけではなく、関係部署全員の社員様の御意見をくださったところもありました。本当にありがとうございました。高校生の授業での作品制作に対する感想の域を超えて、広告ポスターを専門としているデザイナーにクライアントの視点で御意見をいただきました。とても勉強になったと感じております。
都立工芸の生徒に求められる到達レベルは、卒業段階でその専門分野の会社、事業所等で、社員として基礎や基本のことはすべて一人前にこなしながら仕事ができるレベルです。もちろん全日制も定時制も、大勢の生徒が美術系の大学や専門学校に進学しますので、都立工芸を卒業後も勉強を続けていくことは当たり前ではありますが、卒業の段階で、社会が求める一定のレベル以上の力を身に付けていることが大事です。そのためにたくさんの課題を制作し、専門の先生方から知識や技術を教わります。
工芸祭の作品展示もそうですが、卒展も都立工芸の原点はどこにあるのか、ということをあらためて考えさせられ、感じさせられる展示でありました。そして、今回の展示を見た中学生の皆さん、またその保護者の皆様、都立工芸に来ると、とても創造的な勉強ができることがお分かりいただけたと思います。水道橋駅前の大きな校舎でお待ちしています。

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