2017
04.27

ストップ!フェイク

アメリカ大統領選挙の時にフェイクニュースのことが話題になりました。
クリントン氏とトランプ大統領の一騎打ちの状況となったとき、インターネットやSNSにそれぞれの候補にとってマイナスダメージとなるようなニュースが投稿され、拡散し、それが実際の選挙に大きな影響を与えたとも言われました。しかし、そのニュースが実際に事実であったのか突き詰めていくと、誰かがねつ造したニュース、すなわちフェイクであったということが多くありました。日本においても熊本地震の時に動物園のライオンが脱走したというフェイクニュースを作成して拡散させた人が逮捕されるという事件もありました。
なぜこういうことが起きるようになったかについては、様々な分析がなされていて、例えばニュースを新聞、テレビ、「ニュースサイト」で見る人よりもSNSで見る人が多くなったから、とか、自分の都合の良いニュースばかりを人々が見るようになって、そうしたニュースがフェイクだと思わずに、事実と信じ込んで拡散してしまうようになっているから、とか、政治的な目的や広告収入を上げるため、フェイクを掲載することに効果があることを、ニュースの作り手が気付いたから、とか、現在、多くの人はスマホでニュースを閲覧しているので、拡散するのには画面のタップで簡単に行うことができるようになったから、とかインターネットで検索するとたくさんの記事を見つけることができます。
フェイクニュースという言葉が生まれる前にも、「デマ」とか「ガセネタ」とかいう言葉が存在し、その危険性についてもいろいろと言われていました。私たちがよく聞いたのは関東大震災のときのデマについてで、無関係な人々が大勢犠牲になる事件が起こったという記録があります。しかし、こうしたこれまでのデマとフェイクニュースの違いは、デマが口コミで広がっていくのに対して、フェイクニュースはスマホのタップで広がっていくということではないか。すなわち、その速さと広さが口コミでデマが広がる範囲を大きく超えていくことになり、デマで起きた悲劇よりも、フェイクニュースで起きるかもしれない悲劇のほうが何倍、何十倍も大きくて、取返しがつかないようなことになる可能性がある、そんな危険性が考えられます。
フェイクニュースが何らかの目的をもって拡散されたとき、私たちはそのニュースが事実を伝えたものか、何か目的をもってつくられて拡散しているのか、よく見分けることが必要となっています。今世界では、紛争や難民、核実験やミサイルの発射など解決が困難な問題についていろいろとニュースが流れていて、きわめて危険な状況に陥っていることが伝えられています。こうしたニュースについて、私たちはよく見分けて事実を知らなければなりません。

2017
04.20

都立工芸体育祭の歴史

今年度の全日制体育祭が近づいてきて、各科の練習もいよいよ本格的になってきました。朝練のためずいぶんと朝早くに家を出ている人も多いと思います。保護者の皆様、お子様を朝早くに送り出すために御協力いただき、本当にありがとうございます。ちなみに定時制の体育祭は10月上旬ですので、まだ先になります。
さて、今年は創立110周年ですので、都立工芸では体育祭がどのような経緯で行われるようになったのか、校長室にある資料で調べてみました。
けれども、いつから体育祭が行われるようになったのかについては、はっきりしたことは今のところ分かりません。都立工芸が大正12年(1923年)に発生した関東大震災で全焼する前、京橋区築地に校舎があった大正年間の話として、『運動会は毎年秋には校庭が狭いので二子玉川遊園地で行われたが、我々が二年生の時上級生同士の競争合図に使用するピストルによる事故があって以後、運動会は中止になった。』という妙に物騒な記録と、『運動会は京王遊園で行った。各科応援歌の練習もやった。』 という記録を見つけることができるにとどまりました。(「築地時代に学んだ想い出を綴る―築地万年橋」築地工芸会80周年編集委員会編)
水道橋に校舎が移った昭和初期の話として、昭和4年(1929年)に運動会が開かれるようになった記録が残っています。(「創立80周年記念 工芸高校80周年史」築地工芸会記念誌編集委員会編)それによると、『運動会をやりたい、という考えがみんなの心の中にあった。本建築が水道橋に出来てから、校友会競技部の極度の拡張及び社会スポーツ熱に動かされて、体操以外の体育(すなわち競技)というものに対する理解を大部分の人が持って、それは必然的に実行に移された。期日は11月3日(昭和4年)場所は山肩先生の御厚意で陸軍戸山学校のトラック及びフィールド、競技は各科対抗のものを入れてやるということに定まった。−中略−Aは白、Pは黄、Fは赤、Mは紫に各科色別が定められて、各自の色の旗が作られ、屋上で応援歌の練習が始まった。選手は校庭の急場に作られたトラックで練習を始めた。』
「工芸高校80周年誌」には第6回運動会(昭和10年 1935年)の写真が掲載されていて、グランドに面した3階建ての旧校舎の壁面いっぱいにF科(現I科)のモニュメントである巨大なのこぎり、P科(現G科)のモニュメントである巨人像、M科の巨大なMの文字が貼り付けられている様子がよく分かり、戦前からのDNAが平成29年の現在まで都立工芸では綿々と受け継がれていることがよく分かります。
昭和4年以降7年間運動会が開かれ、昭和12年(1937年)に中国との戦争状態が深刻になるとともに運動会は中止となりましたが、翌昭和13年に体育会という名称で一旦再開されました。競技種目としては「二人三脚」「百足競争」「メジシングボール」といった種目が各科対抗で行われ、チームカラーはA科緑、M科紫、F科赤、P科黄となっています。しかし、昭和15年には各科対抗が廃され、昭和16年には報国団鍛錬部大会という名称に変わり、武装競争といった軍事色が強い競技もあったと記録にはあります。
第二次世界大戦敗戦後の都立工芸高校は、工作機械類が企業の工場に動員されていたままであったり、GHQに差し押さえられてしまったりの状態だったということもあり、授業や学校生活を軌道に乗せるのに大変な苦労があったと記録にはあります。昭和22年(1947年)は本校創立40周年で記念の工芸祭が開催されるとともに、体育祭は本科、第二本科合同で実施され、はでなデコレーションも復活したということが、「都立工芸100年の歩み(築地工芸会創立100周年記念誌編集委員会編)」に書かれています。
昭和23年に本科は5年制の旧制実業学校から3年制の新制高等学校へ、第二本科は4年制の定時制高等学校へと改編されました。昭和24年(1949年)図案科が新設され、現在の5科がそろいました。昭和24年の体育祭では、図案科はシンボルカラーにコバルトブルーを選択し、かつ少人数であることカバーするために、デコレーションで他科を圧倒する作戦として、高くそびえる「パレットを背にしたヴィーナス像」を制作したということです。さらにその翌年には「天国への階段」と題したデコレーションでその高さが校舎屋上に達し、それ以降、各科が高さを競うようになったため、高さ制限が決められるようになったということも「都立工芸100年の歩み」に書かれています。また、創立八十周年記念誌にはこの時期の体育祭の様子を旧職員の手記として、『戦後いち早く工芸体育祭が開かれ、生徒とともに大いにハッスルした。特に、各科のデコレーション仮装行列は科の粋を極め、江戸前の神輿をハッピ姿でかつぐもの、結婚式の仮装行列、更には目玉の動く巨大こけし人形など、そのアイディアは目をみはるものがあった。さすがに工芸ならではの感がした。見物人の中には進駐軍の兵士までヤンヤと押し寄せ、その日の夕刊に体育祭の写真がのったりした。』という記載もあります。
 こうした歴史的な経緯を経て体育祭は今日へとつながってきています。今年度の体育祭の優勝がいったいどの科となりますか、生徒諸君の活躍がとても楽しみです。

2017
04.18

虚無と絶望との戦い

ミヒャエル・エンデというドイツの童話作家の作品に、「はてしない物語」という作品があります。本の表紙には尻尾を咥えあっている2匹のヘビがデザインされていて、ストーリーの一番最後の大事な場面でその意味が分かるようになることが印象的です。
このお話は大きく二部構成になっています。前半部は虚無との戦いがテーマになっています。読んだ人はよく御存知だと思いますが、崩壊に瀕しているファンタージエンを救うため、主人公の少年が本の中の世界に入り込んでしまいます。そして、ファンタージエンの中で活躍していたアイレーユや龍のフッフールと共に、冒険をするお話が展開していきます。ファンタージエンの崩壊とは、現実世界に生きる人々がファンタージエンを忘れたことによって起こっていて、そのために虚無がファンタージエンを呑み込んでいきます。ファンタージエンの生き物は虚無に呑み込まれると現実の世界では、虚偽や人間の頭の中の妄想として現れるといったことも描かれています。
ではこの虚無とは何だろうか。はてしない物語の中では人狼の口からアイレーユに、人間世界の戦争や世界帝国が虚偽によって生まれること、ファンタージエンの虚無が広がれば広がるほど、人間世界の虚偽が拡大することが語られます。このことはミヒャエル・エンデの、ファンタージエンに代表される人間の創造性や想像力を滅ぼすのは虚無である、という考え方が示されています。虚無の辞書的な意味や哲学のニヒリズムを検索すると、もっともな説明が書かれています。しかし、ミヒャエル・エンデが示した人間の創造性や想像力が欠如していくと、世の中に虚無と絶望が支配的になっていくというものの見方は具体的で納得性が高いと感じられます。
そして、今現在、虚無に呑み込まれて崩壊しそうなのは、ファンタージエンではなく、現実世界なのかもしれないと感じることが、世界で、日本でいろいろと起こっています。しかしながら、現実世界には「幼ごころの君」は多分いないので、誰かが名前を付けることで世界が救われることもなく、私たち一人一人がどんなことが起きようと、虚無や絶望と戦っていかなければならないということが感じられてなりません。私たちは虚無や絶望がどんなに深いものあっても、創造性と想像力をもつことで、世界や日本で起こっている様々な虚偽や事件、事故に立ち向かっていかなければなりません。
さて、20世紀の哲学はいろんな捉え方はあると思います。宗教から哲学が決別して以来、人間の在り方を根底から問い直そうとする哲学者が何人も出現しました。人間の孤独性を積極的に受け入れて、そのことを超克しようとする哲学者や、ヨーロッパでの考え方に限界を感じ、東洋や仏教を取り入れようとする哲学者も少なくないようです。しかし、20世紀は2度の世界大戦を経験するだけでなく、人類史上かつてないありとあらゆる残虐行為が発生した時代でもありました。人間の尊厳を脅かす虚無と絶望からの人間の在り方を問い直し、組み直す思索を行うことが哲学の役割だったように思います。
ミヒャエル・エンデの作品もその影響を強く受けているように感じられ、虚無と絶望からの回復、再生が、はてしない物語の後半部では描かれているようにも思われます。
20世紀で提起された人類的な課題は21世紀になって解決したとは思えません。むしろネットワークの発達とAIの出現によってより複雑化しているように思います。
これからの創作活動はこうしたことも踏まえながら進めていく必要があるのではないでしょうか。

2017
04.07

平成29年度入学式 校長式辞

春4月、満開の桜に祝福された今日この良き日に、東京都立工芸高等学校に入学された新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして、入学式に御出席いただきました保護者の皆様、本日はまことにおめでとうございます。
また、御多用にもかかわらず、御来賓の皆様には本校入学式に御出席いただきましたことを、心より御礼申し上げます。

さて、東京都立工芸高等学校は、明治40年1907年、東京府立工芸学校として、東京府京橋区築地の地に開校以来、本年をもって110年、卒業生22000人を超える伝統校として現在にいたっています。来月5月28日には、文京シビックセンターで創立110周年記念式典を挙行します。都内唯一の「デザイン」「ものづくり」の専門高校として、確固たる地位を占めていると自負していますが、こうした都立工芸に対しての社会からの信頼は一朝一夕ででき上がったものではありません。文化勲章を受勲された方、人間国宝となられた方、叙勲や褒章を受けられた方、デザイナーとして、あるいはクリエーターとして、各界の第一線で活躍している卒業生たちが、営々と築き上げてきた賜物です。都立工芸を目指して入学した新入生の皆さんの多くが、こうした卒業生たちにあこがれを抱き、将来デザインやものづくりの仕事に就きたいと考えていたり、美術系大学に進学したいと考えていたりしていると思います。ぜひ優れた業績を残してきた卒業生のあとに続き、創造性豊かなデザイナー、クリエーター、ものづくりを担う職人、技術者などを目指していただきたいと思います。

では、どんな高校生活を送ったら、将来自分の希望する就職や進学をすることができるようになるのか。私から二つ新入生にお願いがあります。一つめは毎日決められた時間に学校に通い、先生方から求められた学習や実習の課題にきちんと取り組むことです。このことは、高校生として当たり前のことですが、この当たり前のことがなかなかできなくて、学習や実習に遅れが生じてしまう人が毎年のようにいます。特に時間通りに登校することはとても大事です。遅刻の常態化は学校での学習や実習に対する意欲の低下を招くだけでなく、緊張感のゆるみから実習中のケガにつながります。電車通学をする人が大半だと思いますので、電車の遅延を見越して、時間に余裕をもって登校すること。そのための生活のリズム、すなわち毎日の就寝時間や起床時間をきちんと確立すること。
二つめは、クラスメートや上級生と切磋琢磨して、自分を高める努力をしてください。これまで友だちとの人間関係を円滑に構築することが上手ではなかった人もいると思います。都立工芸には、都内全域からの入学生がいます。クラスメートは初めて会った人ばかりで、知っている人がいないというのが普通です。すぐに友達を作らないと学校生活が不安かもしれませんが、時間は十分にありますので、急がずゆっくりと友達や知り合いを作っていってください。そして仲良くなったら、作品で互いに競争してください。毎年の新入生からは、都立工芸入学前、自分は誰よりも絵が上手だと思っていたけれども、入学したら私より上手な人がたくさんいた、ということをよく聞きます。自分より絵が上手であったり、手先が器用であったり、発想が豊かで大胆であったりする人が大勢いるからこそ、皆さん一人一人の知識、技術、発想力、感性の鋭さといったことの向上につながります。同じ学年の同じクラスの人だけではなく、上級生にも大勢そうした人がいることでしょう。そうした人たちをぜひ切磋琢磨すること。

保護者の皆様、都立工芸での高校生活を教職員一同は全力でお子様の成長の支援させていただきたいと思っています。しかし、高校生活ではよいことばかりが起きるわけではありません。おうちで愚痴を言うこともあるかもしれませんし、憎まれ口をたたくこともあるかもしれません。また、成長の過程で子供たちはいろんなことを感じ、時には保護者にとって思いも寄らぬ行動を取ることもあるかもしれません。そうした時、一番お子様の力になるのは、お父様、お母様、保護者の方々のお子様を支える力です。学校と家庭とでしっかりと連携して、これから始まる高校生活を進めたいと思います。高校時代には人間の一生を決定づけるような出会いがあります。お子様の人生が幸せなものとなるように、私たちも頑張りたいと思います。御理解と御協力をお願いして式辞といたします。

2017
04.06

図書館を活用しよう(平成29年度1学期始業式講話)

満開の桜の下での始業式となりました。みなさん春休みをいかがお過ごしだったでしょうか。
今年度は都立工芸高校にとっては創立110周年を迎える大事な年です。5月28日、日曜日の午後に文京区シビックセンターで大勢のお客様をお呼びして、創立記念式典を開催します。みなさんが創立記念式典を期に、110年間、2万人の都立工芸高校生の一員であることを自覚いただき、先人たちが達成してきた多くの業績を超えるデザイン、ものづくりを目指していただくことを期待しています。

ところで、私は荒川区民です。この春休みの期間中に荒川区に新しい図書館ができましたので、さっそく行って来てみました。4階建ての建物の中央には、壁面に書籍がディスプレイした200人を収容できるホールが配置されていました。各階の書棚は開架式で「本の蔵」と名付けられて分野ごとの図書が余裕をもって並べられていました。また、図書資料だけではなく、CDやDVDもあり、PCも貸し出しをしていました。
実はこうした公共の図書館の中には、図書や資料がきちんと揃っていている図書館が相当数あります。私がよく利用する図書館では、台東区の中央図書館、この図書館は合羽橋の道具街を抜けたところにあり、資料や図書を探すのに分かりやすい開架となっています。日比谷公園の中にある千代田区立日比谷図書文化館、この図書館は元は都立図書館でしたが、何年か前に千代田区に移管し、改装工事が終了してとてもきれいなると同時に、使いやすくなりました。昨年デザイン科の先生方の全国研究協議会を行った岐阜県のみんなの森メディアコスモスの図書館、この図書館は天井を見上げると、デザインのすばらしさに見とれてしまい、本を読むことを忘れてしまうすばらしい図書館です。

さて、都立工芸の図書館はというと、皆さんが作品の構想を得たり、デザインについて知ったりするための図書館としては、超一流です。今までも大勢の生徒の皆さんが図書館を利用し、本を借りていますが、本の貸し出し冊数は実は都立高校でもベスト10に入るほどの貸し出し冊数で、全定を合わせると年間8000冊を超える貸し出し冊数があるということです。引き続き図書館をぜひ利用してほしいと思います。特に、新しいものを作り出す力、創造性を発揮してクリエイティブな能力は、一定量以上に情報量をもったコンテンツ、例えば一冊の書籍に含まれた情報を得ることから生まれる、と考えます。一定量の情報量を自分で獲得し、消化していく過程で新しい発想が降りてくるのではないか。皆さんがよく利用するスマホの情報、コンテンツは情報を知る上での入口、導入としては有効ではありますが、コンテンツをスマホのウェブ用に、誰かが加工した情報です。消化しやすいように細切れになっている場合が多い。そして、スマホのコンテンツは今後ますます断片化し、細切れになっていく可能性があると私は考えています。皆さんが、断片化したコンテンツから創造性を育てること、新しい発想がどこからか降りてくることは、非常にむずかしいと思います
私は荒川区の新しい図書館ができて、情報収集できる場所が近くにできて、とてもうれしく思っています。皆さんも、今年度の創造力を発揮するためにも、これまで以上に地元のお気に入りの図書館を活用してください。そして都立工芸の図書館も活用してください。
今年度皆さんが健康で1年間学習、実習に取り組むことができ、3月にはここにいる全員が進級し、卒業していくことを願っています。

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