2017
07.20

多様性とイノベーション(1学期終業式 校長講話)

今年度の1学期が終了しようとしています。この1学期は創立110周年記念式典もありました。皆さんの工芸生としての自覚も高まったと思います。一方で工芸高校に入学して初めての1学期、新しい学年に進級して初めての1学期でした。新しい環境、人間関係でとても苦労した人もいると思います。
さて、去年はオリンピックパラリンピックイヤーだったので、1学期の終業式の時は、話の最後にリオ・オリンピックパラリンピックのことに触れました。次のオリンピック・パラリンピックは皆さんもご存知の通り、3年後の東京です。東京オリンピックは2回目で、1回目が1964年だったことも知っていると思います。そして、開催されなかった戦前の東京オリンピックがあったことも知っていると思います。1940年のことで、2020年のオリンピック誘致と同様に、柔道の嘉納治五郎を始めとして当時の国際的に著名な人たちの努力によって、アジア初のオリンピック開催地として決定しました。ちなみに、この時の東京の前の回の1936年はベルリンオリンピックで、ナチスドイツによる政治的な色彩の濃いオリンピックが開催されました。その記録映画の監督が、女優で写真家としても後に有名になるレニ・リーフェンシュタールという人です。リーフェンシュタールについては、どういう人かぜひ調べて知っておいてください。この1940年の東京オリンピックは日中戦争によって開催地辞退ということになっていまいました、
1964年の東京オリンピックは、第二次大戦後の日本の復興を世界の人にアピールする目的がありました。羽田空港やモノレール、高速道路、新幹線が急ピッチで建設されました。そして東京オリンピック後の日本は急激な経済成長により、とても豊かな国となりました。3年後の2020年のオリンピックも東日本大震災からの復興を世界にアピールすることが大きな目的の一つとなっています。そして前回と同様にオリンピックを契機に、さらに日本が発展することを大勢の人たちが願っています。
ただ、そうした豊かさは1964年のオリンピックの時のように、膨大な予算を使って建物や道路といったインフラを整備することによってもたらされるものではない、ということを知っておく必要があります。オリンピックを開催することで、大勢の人たちが東京にやって来ます。その人たちは、いろんな価値観、宗教、文化などこれまで日本には全く無かったいろんな考え方を日本にもってやって来ます。参考までに昨年(2016年)日本にやって来た外国人は2400万人を超え、10年前(2006年)733万人と比較にならないぐらい増えました。今年は半年ですでに1300万人を超えたということです。3年後のオリンピックイヤーの時は4000万人の来日を見込んでいるということです。実は、日本から海外に出かけた人は昨年が1711万人、10年前が1753万人であまり変化がありません。このことは少し残念に思います。しかし、大勢の人たちが日本にやって来ることにより、一層考え方の多様性が進むこと、そして異文化間のコミュニケーションが盛んになること、そうすれば、そこに新しい発明や発見、これまでにない発想、創造性が発揮されるに違いない。大勢の人々の往来、行き来こそが、日本の豊かさの継続、発展につながると私は考えています。
したがって、工芸高校の生徒の皆さんの役割は、日本にやって来る外国人をはじめとして、いろんな人とコミュニケーションをとって、皆さん一人一人の発想や創造性をより豊かにすることです。皆さんのこれからの活躍の場は日本国内に限りません。世界から必要とされる創造力と技術、コミュニケーション力をもっていれば、世界中から仕事が来ます。皆さんが社会のイノベーションを起こすことにつながっていくと思います。
最後に、この夏休み、日頃はできない様々なことに取り組んでください。ただし事故や熱射病には気を付けること。また、補習が必要な人はしっかりと先生の指示に従ってがんばってください。会社見学やキャンパス訪問をする人もいると思います。良い夏休みとなることを願っています。

2017
07.03

海外留学への挑戦

都立工芸高校からは毎年次世代リーダー育成道場に応募する生徒がいて、生徒たちの中に海外留学に関心が高いことを感じます。次世代リーダー育成道場とは東京都教育委員会が行なっているアメリカやオーストラリアへの海外留学推進事業です。最長1年間の海外留学のかかる費用のうち何割かを東京都が負担してくれます。
この次世代リーダー育成道場を利用して海外留学を体験した生徒たちの話を聞くと、最初の何週間かは慣れない生活で、英語が分からなくて苦労をするけれども、相手が言っていることもすぐに分かるようになるし、こちらが伝えたいことも相手に理解してもらえるようになるので、そんなに苦労せずに学校やホームステイ先でコミュニケーションが取れるようになったと言っていました。そして、海外留学期間のおしまいが近づくと日本に帰りたいけれども、もっとこのまま海外の学校で勉強していたい気持ちがとても強くなるそうです。
ちなみに次世代リーダー育成道場のホームページには、体験レポートが掲載されています。例えばアメリカに留学して地域の野球チームに参加した生徒のレポートです。
『私がアメリカに行って一番学んだことは、アメリカに行ったからといって、何でもアメリカ人のやり方に合わせる必要はないということです。言い換えると、ジャパニーズウェイは世界で通用するということです。具体的に野球に例えて言うと、私はアメリカで野球をしていた時、初めはアメリカ人の桁違いのパワーを目の当たりにして、どうにかして彼らより遠くに飛ばせるホームランバッターになろうということばかりを考えて練習をしていました。最初は、なかなか思うようなプレーができなかったのですが、ある時パワーで勝負するのを諦め、日本野球の得意とする技術的でスピードのある選手としてアピールした方がいいと気が付きました。その結果、一番センターとしてレギュラーを取り、足の速さと出塁率の高さを生かしてチームの勝利にも貢献できるようになりました。「日本流のやり方で世界に挑む」これはスポーツだけでなくあらゆることにおいて言えることで、これから留学に行く人、行こうか迷っている人に一番伝えたいことです。』
若い時に自分が育った文化圏とは全く異なる文化圏で生活し、学習することが、その人のその後の視野の広さや考え方の柔軟性を育てることは言うまでもないことです。やはり問題は、生徒が1年間海外で全く知らない外国人の家にホームステイしながら、外国の学校で勉強しようというチャレンジ精神をもつことができるか、という点にかかっています。
よく言われることは、最近の若者は内向き思考で海外留学や海外での仕事に挑戦しようとしないということです。都立工芸高校の生徒たちは、全都内から通学してきます。中学校から高校を選ぶ段階で自分がやりたいことのために、地元を飛び出して新しい環境に挑戦しようと考えた人たちだと思います。中学校から高校に進学するときに、各区市に何校ずつかある普通科都立高校を選んだ人たちの中には、学校選びの大きな理由が家から近くて通いやすいということである場合があり、そういった思考方法では海外留学に挑戦するようなチャレンジ精神は生まれてこないでしょう。
次世代リーダー育成道場で、東京都教育委員会から紹介されるアメリカやオーストラリアの高校は、都立工芸高校のような専門的な技術や技能を学習する学校ではありませんが、異文化に触れること、全くこれまでと考え方の異なる人たちの家にホームステイすることで得られるエネルギーや人間としての可能性の広がりは何にも代え難い経験であるように思います。
ぜひ内向き思考を打破しましょう。そして世界を舞台として活躍できるクリエイター、デザイナー、クラフトマンを目指しましょう。それだけのパワーが工芸生にはあると信じています。

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