2018
03.23

ありがとう、そしてつながっている(修了式校長講話)

去年の修了式のときに話したことを覚えていますか。もちろん一年生はいなかったので、知るわけがないですが、上級生は覚えている人もいると思います。今年度の作品を制作するにあたって、「思いを形にしてください」、特にいくつか制作する作品の中に「感謝の思いを形にしてください」ということのお願いをしました。今年度の実習を思い返したときに、感謝の思いを込めた作品をつくることはできたでしょうか。

いきものがかりの「ありがとう」の歌詞の中に、

 

 ありがとうって伝えたくて あなたを見つめるけど

   繋がれた右手が まっすぐな思いを 不器用に伝えている

 

というフレーズがあり、とても好きな歌詞です。

「ありがとう」は魔法のことばで、人間関係のぎくしゃくや、わだかまりをスウっと解決してくれます。ことばで伝えられない「ありがとう」を皆さんは作品を通じて伝えることができる。もし今年度「ありがとう」の思いを作品に託せなかった人がいたら、来年度何か一つでいいですから取り組んでください。

 

さて、私は、一昨年も昨年も都立工芸高校の校長として、全国のいろんなものづくりやデザインの研究会に出席してきました。一昨年の夏、全日制デザイン科の全国大会で岐阜に行ってきました。その時にアートディレクターの水谷孝次さんという方のお話を聞く機会をもつことができました。この方は1980年代に広告のポスターのデザイナーとして大活躍するとともに非常に高い評価を受け、世界的な賞も受賞した方ですが、現在「デザインは奇跡を起こす」という考えの下、メリープロジェクトということに取り組んでいらっしゃいます。このプロジェクトは子供の笑顔の写真を傘にプリントして、世界中に発信し、幸せの輪を広げていくという取組です。取組の中身は興味がある人はウェブで検索していただければよいのですが、この方のお話を聞いて、一番感動したことは、この方の「人とつながっていこう」、そして「つながることが幸せに結びつく」という強い信念と行動力でした。

 

私たち大人もそうですが、どんなに正しいことを考えていても、どんなにすばらしいアイディアをもっていても、人とつながることができなければ、そのアイディアは日の目を見ることはありません。でも率直に言って、自分の思いや考えを相手に伝えることはなかなか難しいことです。特に工芸の生徒たちは自分の作品の世界に入ってしまうことはできても、自分のアイディアを広げていくこと、他の人とつながっていくことを苦手としている人が多いように思います。「思い」や「考え」をつながっていないので伝えられなくて、その伝えられないことを正当化するために、周りが自分のことを正しく評価しないことに不満をもつ、あるいは周りの理解力が足りないから自分のことを分かってくれないと考える。こうした思考法をしている人はいませんか。この思考法は山月記の李徴と同じで、最後は虎になって自滅していく他ないのです。

 

どんなに不器用でもよい、うまくいかなくてもよい、でも、つながろうとチャレンジすることが、周囲の自分に対する考えを変え、今、たとえ困難な状況に陥っていたとしても、絡み合ったくつひもがほどけるように、解決につながっていきます。「いきものがかり」の歌詞にあるように「まっすぐな思いを 不器用に伝えている」人、「伝えようとしている人」を、世の中の人が放っておくことはありません。来年度の私から皆さんへのお願いは、「つながろう」とチャレンジすることです。

 

春休みはあっという間に過ぎることでしょう。そして4月がやって来ます。新入生も入学してきて新年度がスタートします。良いスタートが切れるように、春休みを有効に使うこと、生活規律を乱さないことをしっかりと守ってください。

 

2018
03.14

和風総本家による職人体験御礼

 私は、和風総本家(テレビ大阪制作)の番組を通して鵤工舎様での体験をさせいただいた3名の高校生の一人が通学している東京都立工芸高等学校の校長、鳥屋尾と申します。番組を視聴し、3名の高校生に職人の仕事を体験する機会をお与えいただき、また厳しくも温かい御指導をいただいたことに御礼を申し上げたいと思い、お便りさせていただきました。

 棟梁の小川三夫先生からは「頭でっかちにならないように。頭で考えるのではなくて体で覚えることだから」「頭が先にいくと苦しいことがいっぱいある」などの御指導をいただいている様子を拝見することができました。

 また、舎主の小川量市先生からは、自らノミと鉋を使ってみせていただき、道具の手入れの大切さを教えていただきました。「課題を見つけて一つ一つクリアしていけば楽しい。どんな職業だってそうだ。始めは怒られる。自分のものにしないと」といった御指導もいただきました。

 さらに働いている職人の皆様から、励ましや仕事としてやっていく上でのアドバイスをいただきました。

 実際に皆様が働いている現場で、憧れの名人からいただいた言葉は、生徒たちにとって心の奥底まで響くものであったに違いありません。彼らはこれまで高校の実習授業の中でも、様々な指導を教員から受けて来ています。しかし、実際の作業に取り組んでいる場所でお話しいただいた重みは、何にも代え難い経験でありました。

 しかし、今回体験させていただいた生徒たちだけでなく、参加した3名のそれぞれの高校の生徒たちをはじめ、全国の工業高校の生徒たちが番組を通して、先生方や職人の方々の謦咳に触れることができ、御指導や思いを聞くことができたことを、私は御礼申し上げたいです。本校生徒が番組の終わりの方で、「木を加工することだけではなく、普段の生活のことがすごく大事だと強く感じた」と話していましたが、体験を通してのそうした気付きを、番組を見た生徒たち全員が共有できたことを御礼申し上げたいです。

 都立工芸高校に在籍している生徒の中にも、ものづくりに対する姿勢と普段の生活とを切り離して考える生徒もいます。また、自分がやりたいことが大事で、それを実現するためには、多くの人の助けや協力をもらうことが必要であることに気が付かないものもいます。もしかしたら、全体がつながっていることに気が付かないこうした考え方は、現在の日本全体を覆ってしまって、この国のとても大事なことを大きく損なってしまっているのかもしれません。

 ものづくりを目指す若者は日本中から減っているけれども、入学してくる若者たちに大事なことがきちんと伝えられないまま、大学やものづくりの会社に送り出すようなことがあってはいけない、私たち高校教育に携わっているものが、生徒たちの指導に関わる中で襟を正していかなければならないと考える機会をいただきました。

 鵤工舎様のますますの御発展と皆様の御健勝を心よりお祈り申し上げます。今後も何かの機会があれば高校生を御指導下さい。どうぞよろしくお願いいたします。

2018
03.14

第70回卒業証書授与式校長式辞

 春弥生、この良き日に、都立工芸高等学校を巣立っていく卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。
また、卒業生の門出に際して、御来賓の皆様、卒業式に御出席いただきありがとうございました。保護者の皆様も、お子様の卒業式での晴れ姿を御覧いただき、喜びもひとしおのことと拝察いたします。教職員を代表し、心よりお祝い申し上げます。

 さて、卒業生の皆さんは都立工芸高校でいろんなことを学んだと思います。私は高校でしか学ぶことができないことを、星を例えとしてお話することにしています。
 今から1万年以上前、メソポタミア地方で麦の栽培が始まり、獲物を探す必要のなくなった人々は空を見上げて、星があることに気が付きました。星は毎晩少しずつ向きを変え、三百六十五回太陽が昇って沈むことを繰り返すと元の位置に戻ることにも気が付きました。また、中には天空の一点の同じ場所に存在する星があり、その星の周りをいつもめぐる星と、全く無関係の動きをする星の存在にも気が付きました。なぜいろんな星があるのだろう。太古の人々は、星たちの複雑な動きに世界を支配する真理、法則、普遍性、創造主の意思があるからと考えました。その真理を見出そうと人々は、幾世代にもわたって星を観察する努力し続けました。

 太古の人々と同様に、真理や法則、普遍性を探し求めることこそが、高校時代に一番学ぶべきことであり、それは、高校時代が人生の中で唯一、些末な現実から離れて、自分の可能性と未来を信じて毎日努力し続けることができる時期であるからです。太古から現代にいたるまで、人類は真理や法則、普遍性を探し求め、あらゆる文明、科学、宗教や哲学を生み出し、発展させ、歴史を刻み続けるとともに、これからの人類の進み行く道筋を思索してきました。同じことを一人の人間の人生にも置き換えることができ、それは高校時代に考えたこと、経験したこと、身に付けたことが、その人の人生に決定的な意味をもち、これからの人生を生きていく源(みなもと)となることである、そんなふうに私は考えています。高校でしか学ぶことができないこれらのことや勉強をしていく中で身に付けていかなければならないことで、皆さんは都立工芸高校で時には悩みながら、苦しみながら過ごしたかもしれません。

 高校を卒業した後に、皆さんがこれから進学先や就職先で遭遇するのは、真理や法則、普遍性の探求とは程遠い、具体的で些末な出来事が連続する現実社会です。高校の時にすでにその多くを経験した人もいるかもしれませんが、さらに多くの生きていく上で乗り越えていかなければならない、こまごまとした現実が目の前に出現してくることでしょう。
 しかし、真理や法則性、普遍性について考えをめぐらし、これからの人生の生き方に自分なりの答えを見出した、あるいは見出そうとしている皆さんがこれからなすべきことは、一見矛盾するようですが、このこまごまとした現実社会を、どうやったら居心地がよくて、幸せを感じることができ、暮らしやすくて、癒されることができるように、変えていくことができるか、ということです。そして、そのことを自分の問題としてだけではなく、社会全体の問題として解決を図っていくことこそが、都立工芸高校卒業生が取り組んでいかなければならないミッションであると私は考えています。

 最近のニュースで報道される事柄は、決して人間の将来がバラ色であると感じさせるものばかりではありません。中には、私たちの生活を脅かし、社会を混乱させてしまうものも含まれて、特にコンピュータやネットワーク、技術の発達は人々を幸せにもするけれども、人間の生存を脅かすことにもつながっていくことでしょう。

 こうしたことを踏まえながらも、やはり私は、ものづくりは人類の進歩と福祉につながり、美しいデザインは人々を幸せにするものと考えます。そして都立工芸高校を卒業する皆さんは、世の中の人々を幸せにするミッションをもって卒業し、工芸高校で学んだものづくりとデザインの力で、世の中の幸せをつくり出すことができる人となって欲しいと思います。自分自身が幸せになるのは当たり前で、自分だけでなく他の人々も幸せにすることができる、皆さんは、そんな力をもっていると心から信じています。皆さんは世界の幸せをつくり出す人であり、幸せをデザインするのが都立工芸高校の卒業生の役割です。

 卒業後はそれぞれの道に進む皆さんですが、進路先では様々な人たちと出会うことと思います。中には、都立工芸高校を卒業した先輩がいて、皆さんが勉強する上で、あるいは仕事をしてく上で様々な相談相手となってくれることでしょう。私は皆さんにもそうなっていってくださることをお願いします。そして、なによりもそれぞれの進路先で御活躍されることを心よりお祈り申し上げます。

 保護者の皆様、お子様は工芸高校を卒業し、自分で自分の生きる道を切り開いて行こうとしています。そしてしっかりと進んでいこうとしています。頼もしくもあり、一方で不安でもありますが、新たな道を歩み出した彼らを祝福したいと思います。
 結びに、お子様をこんなにも立派に育てられた保護者の皆様に、心より敬意を表するとともに、これまで都立工芸高校の教育活動に御理解と御協力をいただきましたことを厚く御礼を申し上げて、式辞といたします。

2018
03.05

2018卒展

3月2日から3月4日まで東京都美術館で開催した2018卒展には、4500名もの方々においでいただき、本当にありがとうございました。開催期間中は春の日差しがあたたかく上野の森を照らすとても良い日和となり、卒業生の3年間の努力を祝福しているかのようでした。

各科とも例年以上の作品の出来であったと思いますが、全体から受けた印象と感想をいくつか書いておきたいと思います。

試行錯誤の末に完成にたどり着いた作品が多かった。最初に考えたことや思いついたことを、実際に作品化していくにあたって、ああでもない、こうでもないを繰り返しながら制作し、完成度を上げていった作品が多く、ディテールへのこだわりが例年以上であった気がしました。ちょっと見たときは気が付かないところまで、しっかりと作り込んでいるので、その意味ではプロ好みの作品に仕上がっていたと思います。言い換えるとバランスが良く、見たり手に取ったりしていると不安感を感じることがあまりありません。使い勝手が良さそうだし見やすかったり、温かい気持ちになったりするような作品が数多く展示されていました。一方で作者のエネルギーが爆発したような作品、たとえば何かの怒りを思い切りぶつけたような作品はあまり見当たらず、高校生の作品に純粋な若者のエネルギーを求めている人にとっては、物足りなく感じるかもしれないと思いました。

視覚的な心地よさをどう形にするか、工夫している作品が多かった。インスタグラムなどのSNSの普及が、生徒たちの作品づくりに影響しているのかもしれないと感じました。美しい作品、見ていて気持ちよくなる作品、写真にするととても見栄えがいい作品が、現在の社会では売れやすいに違いなく、そうした作品をつくることができるかどうかが、クリエイターやデザイナーに求められている能力なのかもしれません。あわせて映像作品もやや多くなったような気がしますが、作品数を去年と比較しているわけではないので、印象に過ぎないかもしれません。ただ映像の中でどうやったら作り手の思いを形にできるか、必死に模索する様子が感じられました。

はみだそうと試みる作品が多かった。工芸高校の各科ではそれぞれの科の専門的な学習内容にもとづく実習をおこなっていますが、そこから飛び出して自分がつくりたいものに挑戦しようとする姿勢の作品もいくつかありました。実は、今年度最後の学校運営連絡協議会で、各科の作品が似通ってきているのではないか、という御指摘もいただきましたが、科で学ぶ技術や知識をしっかり踏まえた上で、新しいことに挑戦したり冒険したりすることも大事だと思います。

自分は気が付かないかもしれませんが、高校生のパワーはとても強くて、今回の卒展でも卒業生の作品から伝わって来るパワーはとても大きいものでした。卒展を目標にがんばってきて、やり切ったと感じている人と、展示までこぎつけたけれども完成には程遠いと感じている人と、それぞれ感じ方はいろいろと思います。私は卒展が完成である必要はないと考えます。卒業制作、課題制作を通じて、必ず自分の技術的な問題、発想方法や企画力の問題など、1,2年生のときには気が付かなかった問題に直面したと想像しています。卒業制作、課題制作からさらに自分の新しい道が始まる、そんなことを卒業生が感じていて欲しいと思っています。

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